岡山県教育委員会

11月23日(日・祝)まで、岡山県立博物館で開催中特別展「花ござ 心おどる い草の世界」岡山人のチャレンジ精神と超絶技巧を堪能

2025年11月05日

 


 芸術の秋🍁岡山県内でも楽しい展覧会がたくさん開催されていますね。

 今回は、「岡山県立博物館」(岡山市北区後楽園)で開催されている特別展「花ござ 心おどる い草の世界」に注目! 県外からもファンが多数訪れている同展。企画した学芸員・松井今日子さんと一緒に展覧会を巡りました。


 い草ののれんが迎えてくれる「花ござ」展。写真は担当学芸員の松井今日子さん。


 この展覧会のため、県内のさまざまな花ござを調査。倉庫の奥に眠っていた花ござを発掘したり、捨てられる直前だった花ござを引き取りに行ったり…。「岡山の花ござの全体像を可能な限り、皆さんにご紹介したい」と各地を走り回って資料を集めました。

明治時代、世界を熱狂させた岡山発の「花ござ」 幻と呼ばれる傑作を展示


 岡山県では、江戸時代から県南部に広がる干拓地を中心に栽培されていた「い草」。主に畳表の材料として使われてきましたが、明治時代になると、い草を鮮やかに染めて製作する敷物「花ござ」の技術が躍進。国を代表する輸出品として世界に名を馳せます。

そのきっかけを作ったのが倉敷生まれの実業家・磯崎眠亀(いそざき・みんき)です。

磯崎眠亀(1834年~1908年)。現在の倉敷市茶屋町に生まれる。

革新的な技術で開発した「錦莞莚」で、それまで庶民の日常品であった花ござを

一気に芸術の域まで高めた。錦莞莚とその織機は1885年に特許を取得。

(肖像写真、岡山県立博物館蔵)


 眠亀は、革新的な織機を発明して、超絶技巧が凝らされた花ござ「錦莞莚(きんかんえん)」を生み出すことに成功。い草の画期的な染色法も考案、その後の日本のい草の加工技術の発展に大きな影響を与えました。


 「錦莞莚」は1890年のパリ万国博覧会でも評価を受け、海外で一大ブームに。明治時代中期には、国の重要な輸出品へと成長。明治35(1902)年には、アメリカへの輸出品目の3位となったという記録も残っています。

 

 岡山県の特産品となり、日本の花莚(かえん)産業の基礎を築いた錦莞莚ですが、現在はその製作技術が途絶えてしまったため、「幻の花ござ」といわれているそう。


 同展では、「錦莞莚」の傑作を多数展示。その一部を紹介しましょう。

錦莞莚 黒花菱輪郭内部蝶模様 一畳敷 明治29(1896)年 岡山県立博物館


(左)錦莞莚 鋸歯文輪郭青海波紋 一畳敷 明治20(1887)年 岡山県立博物館

(右)部分拡大。細部まで凝りに凝ったデザインに驚嘆。

「錦莞莚の技術が途絶えてしまった今、これ以上のものは出てこないと思います」

松井さんも語る最高峰の作品。


鮮やかな染色が目を引く作品。い草を染めるには大変高度な技術を要す。

この染色技術も磯崎眠亀が生み出した。

錦莞莚 極彩牡丹唐獅子模様 一畳敷 明治28(1895)年 倉敷市教育委員会

美人画から、動物画、テレビヒーローまで!? さまざまな図柄が楽しい捺染の花ござ

 錦莞莚より安価で大量生産でき、人々が手に取りやすいように工夫されたのが捺染(なっせん)の花ござ。捺染とは、顔料などを直接生地などに印刷する方法のこと。金属の型を使って花ござに文字や絵を直接印刷して製作されました。柄の表現もしやすく、展示室にはバラエティーに富んだ品々がずらりと並びます。インパクト大の動物画やテレビでおなじみのヒーローものなど、思わず笑みがこぼれてしまうものも。

 「国内外の需要を受け、さまざまなデザインのものが作られました。国内の他地域で生産されたものと比べて、岡山の花ござは織り方も自由で色も鮮やか。錦莞莚に代表されるように、細かい技巧が凝らされたものも多い。〝とにかくいいものを作りたい〟〝人と違うものを作るぞ!〟という岡山人の気概やチャレンジ精神をぜひ感じていただけたら」と松井さん。



(左)捺染花莚 美人画 明治時代末期 早島町教育委員会 

(右)捺染花莚 昭和時代 個人蔵


捺染花莚 ライオン模様 昭和時代 個人蔵



子ども向け捺染花莚 昭和時代 個人蔵

洗練されたデザインに感嘆 民藝運動との出会いが生んだ「花むしろ」

会場の一角に並ぶ、モダンな逸品の数々も来場者の人気を集めています。

「民藝(みんげい)」運動の流れから生まれた花ござ「花むしろ」です。

県立博物館1階の展示室には、この花むしろを使った昭和期の部屋が

再現されているのでこちらもぜひチェックを。

い草の生産が盛んだったころの昭和の風景がよみがえる映像資料コーナーも必見

 昭和期の生産風景を紹介する映像や、実際の道具を展示する資料コーナーも必見です。早島町の学校のグラウンドにい草を並べて干している様子、い草の収穫シーズンに県外から出稼ぎに来て手伝う人々の様子など、懐かしい風景を見ることができます。

い草の刈取風景 昭和時代 山﨑治雄氏撮影、岡山県立記録資料館蔵

展示解説・織機の実演、フォーラムもお楽しみに

 日本各地の花ござ産業に今も脈々と受け継がれている、岡山の花ござの技術。実際の織機を使った実演や展示解説、多分野の専門家が登壇するフォーラムも企画されています。

 国内のい草生産量が減少し、生産者の方々も高齢化している今、かつて盛んだったころの技術を持っていたり、話が聞けたりする方は年々少なくなってきているそう。切磋琢磨しながら生み出された素晴らしい技術の数々を体感できる貴重な機会です。

 展示場内は一部作品を除いて、ほとんどの作品が写真撮影もOK。

 折れやすくて、扱いが難しいというい草でよくぞこの表現を!という驚きにあふれた展覧会でした。豪華絢爛なものから、子ども用のかわいい花ござまで、多彩な花ござが一気に見られるのもワクワク。


 ぜひお気に入りを探してみてくださいね。


山陽リビングメディア「さりお」編集部 谷川恵子




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