さくらフォレスト株式会社
【ねこまたの実とひと】150匹の猫のお世話をするNPO法人SCATの代表・山﨑祥恵さんと、ねこの幸せについて考える
2025年11月12日
私たちさくらの森は、猫と飼い主さんの「幸せな時間」を少しでも長く支えたいという思いから、日々“ねこまたの実”の開発・改良に取り組んできました。
その過程で気づいたことがあります。
猫の健康を支える商品づくりの背景には、いつも“猫に関わる誰か”の存在があるということです。
保護活動に携わる人、地域で静かに見守る人、仕事として関わる人、そして一緒に暮らす飼い主さん。
立場は違っても、それぞれの物語の中心には “猫と、猫に向けられた人の想い” があります。ねこまたの実の開発・販売では、たくさんの猫と人との物語を受け取りながら進めています。
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これからも、ねこまたの実では、そんな「猫と関わる人の物語」に耳を傾け、その思いや葛藤、願いを丁寧にすくい上げたいと考えています。
猫が大好きな人も、そうでない人も、こうした“人の姿勢”に触れることで感じられるものがきっとある――そんな気持ちから、私たちはねこまたの実に協力していただける素敵な方々の中から、猫のそばにいる“人”にフォーカスする企画を始めました。
今回お話を伺ったのは、福岡県新宮町の沖合に浮かぶ相島で、およそ150匹の猫たちを日々見守り続けるNPO法人SCAT代表・山﨑祥恵さん。
ねこまたの実では、お届けの際の同梱物として想いを伝えるためのお手紙でご協力いただいています。
ねこまたの実の開発やお届けの中で触れてきた“猫に向き合う人々の思い”。
その延長線上で、「相島で猫と向き合ってきた一人の女性の物語を知りたい」と思い、私たちは相島へ向かいました。
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猫のしあわせを様々な角度から考える
福岡・新宮漁港から船でおよそ20分。
相島に近づくと、堤防の上に小さな影が並んでいるのが見えてきました。
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船を見送りながら、日向でとろける猫たちです。
ここは「猫の楽園」。
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港につくと、あちこちにかわいい猫たちの姿が。
逃げることなく、のんびりとあくびをする子や足元でゴロンと横たわる人懐こい子もいます。
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猫たちへの挨拶をすませ、待ち合わせの「猫食堂(給餌場)」へ。
着くと、穏やかな笑顔の女性が迎えてくれました。
「今日はありがとうございます。NPO法人SCATの代表をしています、山﨑です。」
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山﨑さんは2018年に動物たちを守るNPO法人SCATを立ち上げ、その翌年から相島の猫のお世話をする活動をはじめました。
彼女はなぜ、この福岡の離島へとやってきたのでしょうか。その理由に迫ります。
SCAT立ち上げの背景
山﨑さんの心に強い衝撃を与えた一つの事件から、この活動は始まりました。
「とある猫の虐待事件を知ったことがきっかけです。そのニュースを見たとき、『この世の中にそんなひどいことをする人がいるのか』と強い憤りを覚えました。その後も猫の虐待の話はつきません。何か自分でもできることがあるんじゃないか、守れる命があるのではないか、そう考えて始めたのが、この活動でした。」
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はじめは個人で活動をしていた山﨑さんですが、徐々に協力しあう団体が増え、より多くの命を守るためには組織化が必要だと気づきます。
「これから活動を広げていくならNPO法人化した方がスムーズにやりとりができるというのが分かったので、NPO法人を立ち上げることを決意しました。それから1年後くらいですかね。福岡の猫保護団体の方から『相島の猫の栄養状態が良くなさそうという噂がある。応援にきてほしい』と言われ、相島へ行きました。」
過酷な状況で生きる、島の猫たち
相島の猫たちの健康状態を確認するため、山﨑さんは初めて島に降り立ちました。
そのとき、彼女を待っていたのは、過酷な現実でした。
「着いたら、もう、すべてが想像以上で大変でした。猫たちはみんな骨ばっていて、ケガをしている子もいて。中にはトビに襲われる子猫の姿もありました。また、はじめは 島の方ともコミュニケーションがうまくいかず……。そりゃそうですよね、急に知らないヤツがやってきて猫に何かをしている。だれでも警戒します。 だけど、その後、腹を割って何度も話すうちに、少しずつ、お互いが何を思っているのか、通じあうようになっていきました。」
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心が折れそうになっても何度も通い、地元の方の言葉に耳を傾ける。
そうして、 根気強く猫の保護を行い、2年後には島の猫たちの一斉TNR※という活動に携わります。
※TNRとは、Trap-Neuter-Returnの略で、猫を捕獲(Trap)し、不妊・去勢手術を行い(Neuter)、元いた場所に戻す(Return)という活動。猫が増えすぎて殺処分とならないようにするための効果的な方法で、地域猫問題の解決を目指すものです。
島全体を巻き込んだTNR
島と猫の未来を考えた、TNR(Trap/Neuter/Return)。
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「生まれ続ければ、人間の手に負えなくなる」という現実に対処するため、複数の団体と一丸になって取り組みました。
「当時の頭数は今以上に多く、自分たちだけでTNRをしようと思っても手が追いつかなかったんです。そこで公益財団法人どうぶつ基金の支援制度に申し込み、近隣の団体や個人ボランティアに輪を広げる体制に切り替えました。結果的に、これまでのべ300頭もの手術を進めることができています。」
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島にいるほとんどの猫の耳先は、V字に欠けています。それは、TNRを終えた証拠であり、人と猫が無理なく共存していくためのしるしでもあります。
猫の健康を守る
島の猫たちの健康状態は格段に改善し、毛ヅヤもよく、目の輝きも変わりました。
それは山﨑さんや、相島猫の会※の方、島の方たちが毎日、島内10か所に設けられた「猫食堂」で、きれいな水とフードを補充しているからです。フードは全国からの寄付に支えられていますが、足りない分は自費で補うこともあるといいます。
※相島猫の会とは…山﨑さんたちとともに、飼い主のいない相島の猫のお世話をしている団体です。
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「最初の頃は、痩せた子や毛ヅヤが悪い子が多かったんです。でも今は、毛並みがふわっとしてるでしょう?栄養が行き届いている証拠です。 栄養状態が良くなると、表情も変わってくるんですよ。」と、嬉しそうに微笑む山﨑さん。
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「 環境は改善しましたが、定期的な見回りは欠かせません。活動のために提供していただいた見回り用の車、ナンバーが5525の『ごーごーにゃんこ号』に乗って島内を巡り、各地にいる猫たちの食欲、歩き方、呼吸、毛ヅヤを見ます。そして、少しでも気になる子がいれば、写真や動画を動物病院の先生にLINEで送り、遠隔で指示をもらうんです。」
必要があれば山﨑さんたちが猫を島外の病院へ連れていくこともあります。
「以前、交通事故で後ろ足を1本失ってしまった子がいて。でも今は元気に3本足で走り回っています。瀕死の状態で病院に運んだ子が、元気になって島に帰ってきたとき、『あぁ、ひとつの命を助けることができたんだなぁ』と本当に嬉しく思います。」
命の数だけ、物語があり、喜びがあります。
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地域とのつながり――とりあう手と手
猫たちの暮らしを支えているのは、山﨑さんやSCATスタッフの方だけではありません。
この島には、静かに手を差し伸べる人たちがたくさんいます。
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「島のいくつかの飲食店はレジ横に募金箱を置いてくれています。フェリーの船員さんは、重いフードの荷物などを運んでくれる。あと、猫食堂を単に作るだけじゃなくて、風よけを設置したり、雑草が生えないように防草シートを敷いたりと、いろんな工夫を凝らして手伝ってくれる方もいます。こういう方たちのおかげもあって、相島の猫たちの安全が守られているんです。」
小さな島で続く、静かな日課。
その積み重ねが、猫たちの穏やかな日々を支えています。
“見る・気づく・すぐ動く”人たちがいる――それこそが、この島でゆるやかな時間が流れる理由なのです。
現在の課題、観光と暮らしの両立
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相島は“猫の島”として知られ、多くの人がその愛らしい姿を見に訪れるようになりました。けれど、その人気の裏で、人の優しさが思わぬ形で猫を困らせてしまうこともあるといいます。
「観光で訪れる方が多く、猫と仲良く過ごしているのは微笑ましいのですが、おやつの与えすぎは気になります。特にウェット系のおやつは高カロリーで栄養が偏りやすい。少量あげているつもりでも、不特定多数の方が次々に与えると、糖尿病のリスクにつながります。なので、もし食べ物をあげるなら、総合栄養食のドライフードを少量、専用のお皿にとお願いしています。あと道端での手渡しは、猫が道路の真ん中で待って、事故につながる恐れもあるので、控えてもらえると、猫たちも安心できますかね。」
「猫が好き」だからこその行動が、ときに命を危険にさらしてしまう。
山﨑さんはそんな“善意のすれ違い”を減らすために、「伝えること」も活動の一部として続けています。
そして、もう一つの課題とも向き合っているようです。
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「あとは、今よりもさらに島の方々と連携をとっていくことですかね。猫で島が活性化しているのは嬉しいし、できれば自分たちで面倒を見れたらいいと思っている島民の方もいますが、島全体で高齢化が進んでいるこの現状。
どうしても150匹の餌やりや水換え、病気・ケガのケアをするのは難しいというのがあります。でも、猫がいなくなるのは寂しい……という複雑な感情があるようです。
その気持ちを理解しつつ、どうすれば猫と人が共存できるかを一緒に考えていく必要があります。」
猫の幸せを守ることは、島の人たちの暮らしを守ること。
山﨑さんの言葉から、その信念が静かに伝わってきました。
「猫のしあわせ」に、ひとつの正解はない
夕暮れの港。
オレンジ色の光が、猫の毛並みにやわらかく反射しています。
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最後に、今回のテーマ『ねこにとっての幸せとは何か』を山﨑さんに伺いました。
「難しい話ですね……。例えば、不妊去勢手術も、不幸な命を減らすための選択でしたが、同時にそれは、人間の手で“子を残す力”を奪うことでもあります。」
穏やかな口調の奥に、長年この活動と向き合ってきた葛藤がのぞきます。
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「そこに絶対的な正解はないんです。ねこの幸せはひとつではなく、環境や関わる人によって変わると私は思っています。だからこそ、『こうあるべき』を押し付けず、その場に合った“落としどころ”を探していくことが大切なんじゃないですかね。」
主張を押し通すのではなく、それぞれの納得いく形を模索し、答えを見つけていく。“ねこの幸せ”を考えることは、“人へのやさしさ”も同時に考えることでもあるようです。
「『自分より弱い存在に対する寛容な気持ち』を持つことが大事だと思います。これは私の活動の根底にある考えで、『動物に優しいまちは、人にも優しいまち』というSCATの理念にもつながっています。
猫が苦手な人の気持ちも理解しながら、 どうすれば共存できるのかを考える――その優しさが巡り巡って、猫の幸せをつくるんだと思います。」
海の向こうに夕日が沈みかけ、港の人々は家路へ。猫たちはそれぞれのお気に入りの場所へ帰っていきます。
最後に
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穏やかに語りながらも、迷いや葛藤を包み隠さず話してくださる山﨑さんの言葉には、長く現場に向き合ってきた人にしか持ちえない重みと、やさしさがありました。
「ねこの幸せはひとつじゃない。環境や関わる人によって変わるし、誰かの正解を押し付けるものでもないんです。」
“弱い存在に対する寛容な気持ち”が大切だという、このシンプルで大きなメッセージは、私たちがねこまたの実を届ける中で耳にしてきた、たくさんの声とも重なります。
猫と暮らす人の願い、地域で見守る人の迷い、保護に携わる人の祈り――猫の幸せの背景には、いくつもの人の物語があり、その一つひとつに、揺れながらも前を向こうとする気持ちが宿っています。
今回の取材を通して、私たちはあらためて実感しました。
猫の健康を支えるという私たちの取り組みは、猫そのものだけでなく、「猫と関わる人の時間と選択」に寄り添うことでもあるのだということを。
ねこまたの実が目指す未来は、サプリメントという形にとどまらず、猫と向き合う人の思いや行動にそっと光を当てていくことなのだと気づかされました。
これからも私たちは、猫と人の幸せな時間を育む“見えない支え”であり続けたいと思います。誰かが誰かのいのちに向き合う姿勢が、静かに伝わっていくように。
相島で静かに続く“いのちの見守り”は、猫と人が共に生きるという優しい選択が、日々当たり前のように積み重ねられていることを教えてくれました。
山﨑祥恵さんの物語に触れた今回の時間も、ねこまたの実が大切にしたい「猫と関わる人の物語」のひとつです。
私たちもその姿勢に学びながら、これから出会う猫と人、その一つひとつの幸せな時間を、そっと後押ししていきます。
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