角上魚類ホールディングス株式会社

地域の漁業者とタッグを組み、まだ見ぬおいしい魚を食卓へ。「日本一の魚屋」を目指す角上魚類の挑戦

2025年11月20日


2025年に設立から50年を迎える角上魚類。新潟県長岡市寺泊の鮮魚店から歩みを始め、関東への進出を機に、築地市場(現在は豊洲)での仕入れを開始。長年、新潟と関東2拠点から新鮮な魚をお客様にお届けしてまいりました。人と人との関係性を大切にすることで、安定的な仕入れを盤石なものとし、鮮魚の他、寿司や総菜品に加工して店頭で販売。豊富な知識を持つ「親切係」をはじめ、対面販売に力を入れることで、売上を大きく伸ばしてきた背景があります。


そんな角上魚類が現在取り組んでいるのが、仕入れ範囲の拡大です。つながりや知見のない地域からも魚の仕入れを始めようと思った理由や、各地域との関係性づくり、お客様からの反響などについて、本取り組みに携わる有馬さん、呉井さんに話を聞きました。


長年のつながりから情報を得て、いざ地域の漁港へ


――角上魚類が新潟・豊洲以外からも魚を仕入れようと考え始められたのは、いつ頃のことなのでしょうか。


有馬:4、5年前だったと思います。我々は魚専門店ですから、魚を安定的に調達することが何よりも重要なのですが、このところの気候変動の影響による水揚げ量の減少、漁業者の高齢化、後継者不足といった課題に対処する必要がありました。この2拠点以外からの地方市場、浜からも調達できるようになれば、お客様に安定して魚をお届けできるだろうと考えたのが最初でしたね。



――島国である日本には、全国各地に漁港があります。新たな仕入先は、どのように選ばれたのでしょうか。


呉井:当時の我々には、他の地域についての知識や情報がほぼありませんでした。千葉など、近場なら何となくわかる程度だったんです。ただ、私たち角上魚類は、これまで売上を伸ばしてきたなかで市場でも存在が浸透しているという強みがありました。

今、豊洲の荷受け*¹は冷凍を入れて7社、鮮魚だけで5社ですね。


で、新潟で2社。こうした荷受けの方からいろいろなお話をいただける機会があるんです。そのため、自分たちから「ここに行こう」というよりは、荷受けの方から情報をいただいて「じゃあ、ここに行ってみよう」という感じで進めていきました。


*¹ 市場卸売会社 市場へ商材を集めて仲卸業者などに販売します。「大卸(おおおろし)」とも呼ばれます。


――はじめから上手くいったのでしょうか。


有馬:最初の大きなきっかけであり、私にとってのキーポイントだったなと思っているのは3年ぐらい前、仙台の中央市場の大卸、仙台水産さんとのお取引ですね。こちらは、元から当社の会長と先方とに交流があり、親しくさせていただいている大卸さんだったこともあって、歓迎ムードで迎えてくださったんです。実際に足を運んで見させていただいたところ、太平洋側、三陸の魚は非常に良いもので、「ここにこういう良い魚があるなら、他にもあるんじゃないか」と思ったことを覚えています。個人的な気持ちの転換期だったなと。


徐々に仕入れ金額も増えていき、今年のサンマの時期には、豊洲や新潟市場にはないけれど仙台にはあるということで、仙台から仕入れられたという出来事もありました。



――仕入れ場所が複数あることで必要な数を仕入れられたんですね。


有馬:そうです。そういうコネクションができたことは、安定的な仕入れができる体制づくりとして非常に心強いです。


――そこから、現在では別の地域からも仕入れるようになっていますが、各地の最初のご反応はいかがでしょうか。どこも歓迎ムードなのですか?


呉井:いや、そうとは限らないですね。行政側から「うちの県の魚を扱ってほしい」とお話をいただいて向かってみたものの、現地の漁協の方はそれほど前向きではないという温度差を感じたこともあります。


有馬:角上魚類の赤いジャンパーを着ずに来てくれと言われることも多いですね。いかにも角上魚類の人間が来たと思われないよう、目立たないようにしてほしいと。


――それはなぜでしょう。


有馬:角上魚類の人間が来たと知られると、買い占められてしまうのではないかという不安が生じ、相場を上げられてしまうためですね。買い占められると地元の方が困るため、買わせないために一時的に相場を強めるといったことがあるんですよ。ローカルにはローカルのやり方があるでしょうから、そこにいわゆるよそ者が入ってくることへの懸念が強いのだと思います。


――そうした状況をどう打破されてきたのでしょうか。


有馬:言われたように目立たないように現地に行くようにしています。地方市場の大卸さんとのつながりを持つことが大切ですね。



呉井:基本的な進め方は、浜に行ってそこの大卸さんとお会いし、今であればLINEを交換し、グループLINEを作る。その後は、グループLINE上で日々情報をいただき、気になる魚が出てきたら、まずはお試しとして少ない量を仕入れさせていただきます。その繰り返しで、相場観が合うところとはお取引が続き、徐々に仕入れ量、金額ともに増えていくという感じです。


有馬:「出していただける魚で、かつ相場が合えば仕入れさせていただく」のが鉄則です。対等に、無理なく付き合うことを大切にしています。


呉井:当初、我々との付き合いに抵抗感を持たれていた理由には、「買ってやる」といった偉そうな態度で来られるのではないかという警戒心があったのだと感じています。実際、「買う側が偉い」という横柄な態度の買い手もいらっしゃるんですよ。我々はそうではなく、人と人として対等に付き合うことを重視しています。



有馬:この「人と人として」は創業以来からのモットーです。豊洲は相対*²で、新潟は競りでの仕入れですが、どちらでも人間関係を重視した付き合いを続けてきました。競り負けてしまったときにも、良好な関係性があれば少し取っておいていただけることもあるんです。優秀なバイヤーにとって、人間関係づくりはもっとも重要なことだと思っています。


ただ、それでも順調にお取引が続くものばかりではありません。残念ながら、半数ほどが長期的には続かないですね。数回で終わってしまったところもあります。


*² 対取引 競りではなく、荷受け*¹とバイヤーとの直接交渉での取引


呉井:長期的なお取引になるまでには、いろいろな要素が絡み合っているんです。仕入れには物流も関係してきますから、「仕入れ量がこれぐらいだと、物流経費との兼ね合いで折り合いがつかない」「そもそもトラックがチャーターできない」といったことも影響を及ぼします。静岡とのお取引では、付き合いのある物流会社の営業所が沼津にあったために、そちらを活用させていただき、上手く仕入れルートを築くことができました。これは成功事例ですが、上手く折り合いがつかず続けられなかったというケースもあります。




好奇心こそが可能性の種。「おいしい魚を知ってもらいたい」熱は、お客様に伝播する


――グループLINE上で知らせを受けて仕入れるかどうかを決めるというお話でした。中には、これまで扱ったことのない魚もあるかと思いますが、仕入れるかどうかの判断はどうされていらっしゃるのでしょうか。


有馬:相場観が合えば、一旦自分たちが食べてみる量を仕入れてみています。その地域ならではの魚の場合は、おいしい食べ方を教えていただいて試してみますね。水温の上昇により、その地域にとってもこれまで水揚げのなかった南方の魚が獲れたなんてこともあるのですが、そうした魚は、その地域でもまだおいしい食べ方が知られていなかったりもするため、とにかくまずは食べてみるのが第一歩です。


呉井:魚屋ですから、どんな魚でもおいしければ売りたいんです。まずは刺身で試し、刺身でイマイチだった場合は、加工することでおいしく食べられないかを試します。



有馬:角上魚類は対面販売の力が強く、お客様に調理法などをお伝えする「親切係」という店員がいるのが特徴のひとつです。こうした新しい魚も、こちらが見つけたおいしく食べられる方法を店舗側に教えることで、手に取ったことのないお客様に食べていただけています。


こうしたご提案は、変わった魚だけではありません。たとえば、夏場の高級魚として知られるハモ。いろいろなところで揚がるようになったことで安価に販売できたときには、「これだけ安価ならフライにできる」と売り方、提案方法を工夫しました。角上魚類には商品企画の部署もあるので、そこのメンバーがいろいろな食べ方を模索してくれています。


――お店側、親切係の方への情報提供はどのようにされているのでしょうか。


呉井:バイヤーが毎日の入荷情報を登録する社内アプリがありまして、そこにバイヤーが自由にコメントを入れられるようになっています。親切係の方は、個人的にも探求心が強い方が多いため、バイヤーからの情報を参考に、自分で買ってまた別の食べ方を試してみたりもしていますね。




――レアな魚を扱うことで、店側から「これは売れないのでは」など不安が寄せられることはないですか?


有馬:いや、ないですね。ただ、量に関して「ちょっと多すぎるかも」と言われることはあります。1、2箱から試すのであればまだしも、いきなり10箱も入れるのは不安だと。そのあたりはバイヤーも勉強ですね。入れてみて、売ってもらって、結果を見て今後に活かす。日々、蓄積です。


呉井:目新しい魚への食いつきは、店舗によっても違いますよね。


有馬:そうですね。売上もバラバラです。地域性というよりも、店長のカラー、打ち出し方によるところが大きいと思っています。どういう売り方をするのかは店長の裁量に任せられているんですよ。売り場に関していうと、冷凍や干物はバイヤーが棚割りを決めているのですが、入荷内容が日々変わる鮮魚については、バイヤーからの指示が「売れ筋を対面売場のここに置いてほしい」くらいなんですね。では、対面だけでなく、さらにその魚を姿作りにするのか寿司にするのか。ここを決めるのは店長なんです。



――変わった魚、目新しい魚を扱ったなかで、印象的なエピソードはありますか?


有馬:愛媛のコショウダイですね。これは地元でも敬遠されている、値段の付かない魚だったんです。でも、食べてみたらおいしかったので仕入れたところ、売れるようになりまして。SNSでも「煮つけにしたらおいしかった」という反響があり、浜の人にも喜んでいただけました。売れ行きが良くなった結果、手の届かない相場にまで上がってしまったのですが……。角上魚類としては痛い話ですが、地元を思えば相場が上がってまで売れるようになったのは良いことだと思っています。


――スポットライトを当てるきっかけになれたんですね。


有馬:あまり扱われない魚でいうと、市場で値段のつきづらい小さいサイズの魚もありますね。角上魚類は総菜や寿司の販売もしているので、鮮魚として売るのが難しくても、寿司にして売る、総菜にして売るという形が取れるので。


呉井:地元では当たり前に食べられている魚が、ところ変わることで大いに喜んでもらえるというのも、この取り組みの良さだと思います。熊本フェアをやったときには、熊本市の担当者を店舗にお呼びして様子を見ていただいたんです。フェアのときにはのぼりも用意して大々的に行いますし、本当に活気のある雰囲気になるで、担当者にも「角上魚類さんにやってもらって良かったです」と非常に喜んでいただきましたね。



――未利用魚についてはいかがですか?


呉井:本当の意味での未利用魚って、実はほぼないんですよ。今あった「小さすぎるから鮮魚としては値が付かない」といったものが一般的な未利用魚のイメージなのかなと思うのですが、これらは別に未利用魚というわけではありませんので。すでに海外に輸出されていたりしますしね。 


有馬:本当の意味での未利用魚は、大きな魚のエサになるようなものかなと。市場に出回っている時点で、それらは未利用魚ではないと思っています。寿司や総菜など、手を加えれば売れる方法はあるわけですから。


――売り方のバリエーションがあるからこそ、扱える魚の幅が広いのが角上魚類の強みだと言えそうですね。その他、お取り組みで何かお話いただけることはありますか?


呉井:企業との取り組みも行っています。私が印象に残っているのは、東京電力さんと組んで定期的に行っている福島フェアです。震災後、放射能の影響で取り扱えないというところが多かったなか、きちんと検査して安心できるものなら売りたいという想いがあり、企画したものです。お客様側からも喜びの声が大きかったです。


有馬:地域創生事業に取り組まれているサッポロビール株式会社さんからお声がけをいただき、サッポロビール株式会社さんが都道府県レベルで行政とつながり、荷受け*¹とともに連動して私たちが魚を売るという取り組みも行っています。



呉井:その取り組みの一つとして、先日は三重県に行きました。三重県庁で行政の方と県の水産業の現状についてお話を聞かせて頂いたり、実際に津から鳥羽や志摩、紀伊長島まで地方漁港を細かく回らせて頂いたり。


有馬:そうそう、三重漁連*では驚きの出会いもあって。大学生時代に角上魚類の流山店でアルバイトをしてくれていた伊藤さんが働いていたんです。以前は従業員同士だったけど、これからは仕入れ先としてつながっていく。人とのつながりって本当にすごいですよね。

* 三重県漁業協同組合連合会[みえぎょれん]



これからも漁業者とタッグを組み、「おいしい魚」を日本の食卓に届けたい


――全国から仕入れられる体制づくりを始められてみて、見えてきた課題はありますか?


有馬:いやあ、課題だらけですよ。日本は小さい島国ですから、「ここだけが時化る」ということが少なく、時化ると全国的に時化てしまうんです。そうすると全国で船が出せないわけだから、魚がどこにもいなくなってしまう。国内産の魚にはこだわり続けますが、お客様に安定して魚をご提供するために、おいしく食べられる加工品を作る、場合によっては輸入した魚も検討するなど、いろいろと考えていきたいと思っています。


――あらためて、漁師の方やお客様にお伝えしたい想いをお聞かせください。


有馬:私たちとしては、日本一の魚屋になることを目標としています。売上だけではなく、品質や接客も含めたうえでの日本一です。商品を調達する立場としての使命は、どれだけおいしい魚をお客様にご提供できるかどうかです。高齢化により、漁師の方々も後継者不足という難しい状況に立たされていらっしゃいますが、今後もお互いに持ちつ持たれつという良い関係性を築き、魚の調達を続けられたらと思っています。


呉井:いろいろなところに行っている我々ですが、まだまだ知らない浜、市場、地域があると思っています。繰り返しになりますが、私たちは魚屋なので、やっぱり魚をどれだけ調達できるのかが本丸であり、やはり冷凍より生、養殖より天然だという想いがあります。どんなきっかけで関係性ができるのかはわからないものですので、この記事をご覧になった方の中で、「ここにこういう魚があるから来てほしい」といったお声をぜひお寄せいただければうれしいです。ぜひ伺わせていただきます。


――ありがとうございました!






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