デロイト トーマツ グループ
両利きのR&Dで価値を生む――研究×コンサル一体で社会実装を加速
2025年11月20日
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「せっかく素晴らしい技術があるのに、なぜ社会に届かないのだろう」
その問いから、デロイト トーマツ グループの先端技術の研究開発とそのビジネス化を担うエマージングテックR&D(Research and Development:研究開発)チームは歩みを始めた。旗振り役は寺園知広。そして、そこにジョインしたのが、元々経済学の研究者をしていた山名一史だ。彼らのチームは、AIや量子技術、Web3といった先端技術を題材に、研究開発とビジネスの断絶を埋める挑戦を続けている。
特徴的なのは、研究者とエンジニア、コンサルタントを同じ組織に抱えていることだ。研究者やエンジニアが自ら手を動かし技術検証しながら、コンサルタントと議論を重ねることで、技術の可能性を研究にとどめず事業の現場へと橋渡ししている。この環境から生まれたのが、後述する顧客行動をデジタルツインで再現する「AI Garden lab」や、次世代の研究エコシステム実現を目指すDeSci(分散型科学)の取り組みなどである。
研究とビジネスの間に橋を架ける
寺園が先端技術に本格的に関わり始めたのは2017年。金融機関向けのBPRやシステム化を手掛けていたが、AI・アナリティクスの世界に飛び込んだ。2019年からは量子技術にも手を伸ばし、社内横断のチームを立ち上げた。やがて2021年、エマージングテックチームを正式に創設する。
一方、山名は大学や官民のシンクタンクで働いた後、デロイト トーマツに入社した。「研究者として、寺園さんがやろうとしていることは価値があると思えましたが、同時に具体的な達成イメージやプロセスがはっきりしないところが、研究っぽくて面白そうだと思いました。何をやるのか分からなかったので、手伝ってみようと思った」と振り返る。彼がデロイト トーマツを選んだ理由は、不確実性の高い環境への魅力、理論を実地で検証できる場を求めていたこと、そして多様なビジネスやデータに関われそうだった点にある。「仮説を検証することがライフワーク。ここならできると思った」と山名は語る。
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デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 執行役員 寺園 知広
「両利きの経営」をどう実装するか
チームが重視するのは「両利きの経営」だ。既存事業を深める“深化”と、新たな領域を探る“探索”。寺園は「研究者やエンジニアはビジネスデベロップメントとしてのDではなく、R(Research)に寄りがち。だからこそ、ビジネスニーズを理解する人材と組ませ、両輪で回す」と強調する。
実際の成果も見え始めている。生成AIを活用したマルチエージェントシミュレーションを推進し、顧客理解の新しい方法を実証した。
さらに2025年には、人の個性や深層心理を再現したAIエージェント集団を用いて社会のデジタルツインを構築する「AI Garden lab」を発表。これはターゲット層のペルソナに合致した実在人物のデジタルツインをつくり、マーケティング施策を事前に何度も試せる。
「実際の人には聞きにくい質問もAIなら可能。表面的でない深層の反応を得られる」と山名は語る。従来の経験則や統計分析に加え、より多角的かつ実践的なシミュレーションを活用することで、意思決定の精度や再現性を高められる。マーケティング戦略だけでなく、商品/サービス開発や社内制度改革、社会実験にまで応用可能だ。
寺園は「こうしたサービスが出てくるのは、研究とビジネスをつなぐハイブリッド組織があるから」と自負する。同社ならではのアプローチだ。
技術を「見立てる」力で社会課題につなげていく
「有望な技術を教えてほしい」と企業から依頼されることは多い。だが寺園は言う。
「技術だけ見ても分からない。市場ニーズに落とし込んで初めて評価できる」
山名も続ける。「研究から事業化には“魔の川”や“死の谷”、“ダーウィンの海”といった難所がある。そこを越える仕組みを提供するのも、コンサルティングファームのR&Dの役割の一つだと思います」。
技術は知識として蓄えるだけでなく、社会の課題解決に活かしてこそ価値がある。寺園のビジネスや実践的な視点と、山名の理論的・学術的な視点が交差し、未来を切り拓く問いへとつながっていく。
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デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 スペシャリストリード 山名 一史
研究者とコンサルタントの狭間でスタートアップのように生きる
研究者は理論の厳密さや学術的な意義を追求し、コンサルタントは現場での即効性や成果を重視する。それぞれが異なる価値観を持つ中で、両者が一つのチームとして協働するには、常にすり合わせや衝突が避けられない。異質な視点がぶつかり合うからこそ、ここには他では生まれない発見やイノベーションが生まれている。
寺園は「やりたいこととビジネスニーズが重なる点を探すのがマネジメントの肝」と話す。研究者やエンジニアの意欲を尊重しつつも、ビジネスに転換できなければ組織としては立ち行かない。だからこそ、日々の細やかな調整が欠かせない。「本人の興味と社会のニーズが重なる場所を探し続けるしかない」と彼は言う。時にはかみ合わず、仲間が去ることもあった。それでも「日本の科学技術に少しでも貢献できているなら」と続ける寺園の言葉には、この数年の苦労がにじむ。
こうした摩擦を抱えた試行錯誤は、まるでスタートアップの歩みにも似ている。立ち上げ当初、案件はゼロ。組織の存在意義すら疑われ、内部調整に追われる日々が続いた。それでもゼロから一を生み出す経験が、チームを一歩ずつ前進させてきた。山名は「ゼロtoワンを経験できたのは大きな財産」と語る。
もちろん、すべてが成功したわけではない。活動をストップさせた技術領域もある。しかし山名はそれを悲観しない。「軌道修正が必要になれば、すればいい。次へ行ける柔軟さこそが強みだ」と笑う。研究者とコンサルタントという異なる文化が交わるこの場は、常に摩擦と学びに満ちている。取り組みを続けていく中で研究者たちも直接クライアントに対峙し、ビジネスニーズを肌で感じるようになってきた。それが研究開発に反映されていく。
寺園は「続けなければ価値は生まれない」と静かに語る。軌道修正を繰り返す姿勢は、まさにスタートアップの精神そのものだ。大企業の中にありながら、小さく速く動く。その矛盾を抱えながら進んできた5年は、彼らにとって試練であると同時に自信にもなっている。
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オープンイノベーションの実効的な仕組み
日本の経済社会ではかつて(いまも)オープンイノベーションという言葉が盛んに語られた。この状況を2人はどう見ているのか。
山名は「日本のオープンイノベーションは産学連携やCVC設立が中心。本当に成果をあげている例は少ない」と語る。
寺園が注目するのはDeSci。研究テーマのトークンを発行して研究資金調達を実施し、DAOで投資判断する。研究成果(特許など)はNFT化して販売していく新しい仕組みだ。ある有力大学の理学系研究施設を訪れ、電気をつけられないほど予算不足だった現実に衝撃を受けた。「有望な研究者にお金が回らない仕組みを変えたい」。その思いがDeSciへの挑戦を後押しした。
この仕組みにより、従来なら資金が届きにくかった若手研究者や新領域にも光が当たる。山名は「海外ではPh.D(Doctor of philosophy:博士課程)学生が1人で1億円近く調達した例もある。才能ある若手研究者が自由に資金調達できるのはいいことだ」と期待を寄せる。
もちろん課題もある。日本特有の稟議(りんぎ)プロセスはDAOのスピード感と相性が悪い。投票責任や法務・会計・知財管理の整理も必要だ。それでも寺園は「まずは新しい技術にいち早く先鞭をつけるための投資スキームとして理解・利用していただくことが大事」と語る。
DeSciは資金の流れを“声の大きな人”から“価値あるアイデア”へと変える仕組みだ。AI Garden labが「人間社会をデジタルツインで再現する事例」だとすれば、DeSciは「研究資金を分散化し、研究者の挑戦を支える事例」として並び立つ。いずれも、知識と社会の断絶を埋める試みである。
ここにこそ、「オープンイノベーション」という言葉が本来持っていた意味がある。形式的な提携ではなく、知識と資金の流れそのものを開き、誰もがアクセスできる場にする。DeSciは、スローガンにとどまってきた“オープンイノベーション”を実効的な仕組みに変える可能性を秘めている。
R&Dを「知のハブ」として再設計する
AI、量子技術、Web3、そしてロボティクス。エマージングテックR&Dチームは常に新しい領域を探索している。寺園は「ゼロからイチを組み立てる柔軟性こそ価値」と語るが、その裏側には“成果が出なければテーマを解体する”という冷静な判断もある。投資と撤退を繰り返しながらも、小さく速く動く。このスタートアップ的な動き方をコンサルティングファームという大組織の中で続けている点は大きな特徴だ。
一方、山名は「専門知と実証科学を組織の根幹に据えるべき」と強調する。生成AIによってホワイトカラー業務の自動化が進む未来を見据え、研究開発部門は知見や専門性を集約し、実践に生かせる“知の拠点”として進化する必要があると考えている。日本の経済社会に「真の意味でのR&D」を根づかせていくには、個人や一部署の努力だけでは足りない。寺園と山名の試みは、デロイト トーマツの総合力と結びつくことで初めて本格的な変革へと広がっていく。その歩みが、未来に届くR&Dの姿を少しずつ形にしている。
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関連リンク
先端テクノロジー全般
AI Garden lab
- デロイト トーマツ、AIエージェント集団によるシミュレーション環境の構築・活用サービスの名称を「AI Garden lab」へ変更
- デロイト トーマツ、人の個性・深層心理を再現したAIエージェント集団の構築により、顧客やユーザーの反応予測を可能にする「AI haconiwa」サービスを開発~ベータ版提供を開始
DeSci
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