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社内公募の本音と建前、組織最適化の新たな解 ―Thinkings【組織再考ラボ】フェロー 曽和 利光 氏
2025年11月26日
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Thinkingsが運営する「組織再考ラボ」のフェロー、曽和 利光 氏が、多くの企業が解を模索する「社内公募」について語ります。
欠員コストは年収の3倍。経営が直視すべき機会損失
──人的資本経営の観点から、ポジション充足のスピードが企業価値にどう影響するのでしょうか。
必要なポジションに人材がいない「欠員」が続くと、そのポジションの年収の3倍の機会損失が発生する――これは人事の世界でよく言われる数字です。離職でも採用未充足でも、単に「給料を払わなくて済む」という視点では見えない、事業全体への甚大な影響があります。
では、この欠員をどう埋めるか。理想は「社内外を問わず最適な人材を」ですが、売り手市場での中途採用も、部署間の壁がある社内異動も、どちらも簡単ではありません。
ただし、社内流動性を高めることには欠員充足以上の価値があります。第一に離職防止。社内で新しいチャレンジができれば外に出る必要がない。第二に、一人ひとりのポテンシャル最大化。適材適所により能力を最大限発揮できる。そして第三に、組織開発効果です。社内に「人材獲得競争」が生まれると、各部署が魅力的なマネジメントや仕事を提示せざるを得なくなり、結果として組織全体が進化していく。
理想の「社内外同時検討」は難しくても、まずは社内流動性を高めることから始める。これが多くの企業にとっての現実解となっています。
「制度より風土」社内公募が機能しない本当の理由
──社内流動性を高める手段として社内公募制度がありますが、実際に機能させるのは難しいのでしょうか。
そうですね、社内流動性の代表的な仕組みである社内公募制度ですが、成功例は限られています。例えば私がいたリクルートは数少ない成功例。当時は、人事異動の約3割がキャリアウェブという社内公募制度で決まっていました。一方で、同じように公募制度を導入しても、数千人規模の企業で年間利用者が数人程度という会社が圧倒的に多い。この差は明確で「制度より風土」に尽きます。
成功の鍵は、部署の垣根を越えた人間関係(インフォーマルネットワーク)があるかどうか。リクルートでは新卒同期との飲み会、部署横断プロジェクト、社内イベントなどを通じて、営業部門の人間が経理部門の仕事内容を知っていたり、誰が課長なのかまで把握できていた。こうした横のつながりがあるから、他部署への応募ボタンを押せるわけです。
しかし大半の日本企業ではこのネットワークが存在しません。他部署の業務内容も人材も見えない中で、社内公募制度だけ導入しても機能しない。そこで登場したのがタレントマネジメントシステムです。社員が自ら手を挙げられないなら、人事がデータを見て最適配置を決める。つまり社内公募という「社員主導の分散型」が機能しないため、「人事主導の中央集権型」に回帰したのです。
本来は社員の自発的な選択で組織が最適化されるはずだったのに、日本では機能しない。だから「希望はシステムに登録、配置は人事が決める」という中央集権型に戻った。こうした流れは、日本企業が社内公募の限界を認め、現実解を選んだ証なのではないでしょうか。
キャリア自律の幻想と計画的育成への回帰
──社内公募が機能せず中央集権型に戻るとなると、個人のキャリア形成はどうあるべきでしょうか。
実は、この20年推進されてきた「キャリア自律」という考え方自体が「社員全員のキャリアを支援しきれなくなった企業の逃げ」だったと思います。かつての「面倒を見るから会社に従ってね」が維持できなくなり「自由にキャリアを選んでね」に変わった。その理論的裏付けとして、キャリア自律が都合よく使われたというのが実情です。
その結果はどうでしょう。「自分らしいキャリアを」と言われ続けた結果、どの企業もマネージャー層が不足しています。個人の自律的選択で、会社が必要とする組織構成が自然に形成されるはずがないのです。
だから今、次世代リーダー育成では「計画的な育成配置」が復活しています。表向きには語られませんが、タレントプールを作り、密かにこうした戦略的育成を行う企業が増えています。
そんな中、私が提案するのは「要望型キャリア開発」です。会社側が社員に「あなたにはこういう役割を担ってほしい」と明確に期待を示すアプローチ。日本人の多くは貢献欲求で行動する人が多く、会社が期待をかければ「そこまで言うなら頑張ろう」と奮起する。これが日本人の特性に合った現実的なキャリア開発の形だと、私は考えています。
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性格データの可視化が適材適所を実現する
──社内の人材配置を最適化するために、どのような仕組みやデータが必要でしょうか。
まず社内異動の仕組みには3つのタイプがあります。スカウト型、公募型、そして希望や経験をデータベースに登録して人事が配置を決める自己申告型。どの仕組みでも共通して必要なのが、全社員の性格・能力・価値観の可視化です。
特に重要なのが性格データです。離職防止に最も効くのは「性格の相性」ですが、能力やキャリア志向と違い、誰も「上司との相性」は要求しない。だから市場原理では最適化されない領域です。また、採用選考時の情報も貴重で、SPIの性格特性や入社動機などは10年、20年経っても変わらない「人の核」となる部分だと言えるでしょう。
ところが多くの企業では、採用管理システムと人材管理システムが分断されています。せっかく採用時に詳細な情報を取得しているのに、配置では活用されていない。この連携不足を解消することが重要です。
実践としては、まず活躍人材の分析から始めることをお勧めします。職種別・部署別に性格データを分析すると、思い込みと実態のギャップが見えてくる。「素直な人材が欲しい」と言いながら、データでは素直な人ほど早期離職しているなどの発見があるはず。こうした主観と客観のギャップを認識することから、科学的な人材配置が始まります。
採用も配置も本質はマッチング。データに基づく配置こそが、真の適材適所への道です。
曽和 利光(そわ としみつ)について
株式会社人材研究所 代表取締役社長
Thinkings 組織再考ラボ フェロー
心理学の知見を基盤に、リクルート、ライフネット生命、オープンハウスなど多様な企業で人事を歴任。2万人以上の面接経験から培った「人を知り、組織を知る」採用手法と、企業の未来を見据えた組織開発が特徴。現在は人材研究所代表として、採用戦略の立案から組織分析、マネジメント力の向上まで、成長企業の組織づくりを多面的に支援している。
■プロフィール
愛知県豊田市生まれ、関西育ち。灘高等学校、京都大学教育学部教育心理学科。在学中は関西の大手進学塾にて数学講師。卒業後、リクルート、ライフネット生命などで採用や人事の責任者を務める。その後、人事コンサルティング会社人材研究所を設立。日系大手企業から外資系企業、メガベンチャー、老舗企業、中小・スタートアップ、官公庁等、多くの組織に向けて人事や採用についてのコンサルティングや研修、講演、執筆活動を行っている。著書に「人事と採用のセオリー」「人と組織のマネジメントバイアス」「できる人事とダメ人事の習慣」「コミュ障のための面接マニュアル」「悪人の作った会社はなぜ伸びるのか?」他。現在、Y!ニュース、日経、労政時報、Business Insider、キャリコネ等、コラム連載中
「組織再考ラボ」とは
「企業における組織づくりのあり方について再考し、経営層や人事部門の皆さまに対して有益な情報発信を行う」をミッションに掲げ活動しています。
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