ベクタービルダー・ジャパン株式会社
カスタムライブラリーを活用し遺伝子機能のハイスループット解析
2025年12月03日
ベクタービルダー・ジャパン株式会社は、革新性とサポートを兼ね備えた遺伝子デリバリーソリューションを提供し、研究現場のニーズに応えます。
2003年にヒトゲノム解読のドラフトが終了し、ヒトが持つ遺伝子の総数(約2万)とその配列が明らかになりました。これらの遺伝子を一つずつ調べていくことで、ヒトのすべてを知ることができると思われるかもしれませんが、実際にはそれほど単純な話ではありません。現在知られている疾患には多くの遺伝子が多面的に関与しているため、状況に応じた遺伝子機能の解析が必要となります。そのため、研究者たちは独自の実験系を構築し、疾患の原因となる遺伝子を見つけ出し、調節や作用機序を解明します。しかし、各実験系においてすべての遺伝子を一つずつ調べることは不可能です。膨大な時間と労力が必要な探索研究の解決手段として、複数の遺伝子DNAをベクターに組み込み、それらのクローンをコレクションとしてライブラリー化し、同時に大量の遺伝子群をまとめて調べることができるスクリーニング技術が発展してきました。
![]()
昨今では、スクリーニングできるものは自然界に存在する遺伝子だけにはとどまりません。既知の遺伝子に変異を導入したバリエーションをライブラリー化し、より高い活性を持つ人工遺伝子をスクリーニングすることも可能です。 近年、CRISPR遺伝子編集技術が開発されたことにより、ゲノム中の任意の遺伝子の破壊、ノックイン、転写活性化、転写抑制などの多様な遺伝情報の効率的な改変が可能になりました。特に、ライブラリーにCRISPR技術を適用することで、ゲノムワイドの機能欠損型および機能獲得スクリーニングを強力かつ省コストで実施できるようになりました。
遺伝子機能の解析において、高度なカスタマイズが可能なライブラリーを提供するVectorBuilder(日本法人:ベクタービルダー・ジャパン株式会社)は、現在の研究環境における革新的なスクリーニング手法に対応し、研究者の目的に適したスクリーニング用ライブラリーをクライアントと相談しながらデザインし、多くの研究者のニーズに応えています。研究者の限られた時間を有効活用するため、さらなる製品およびサービスの拡充を目指します。
VectorBuilderのカスタムライブラリーを利用した研究の実例:大阪大学微生物病研究所の山本雅裕先生の研究
トキソプラズマは世界人口の約1/3が感染しているといわれ、免疫力が低下していると重症化して死に至ることもあるトキソプラズマ症を引き起こす原虫病原体です。トキソプラズマ症の治療のために、世界中の研究者がトキソプラズマの感染メカニズムの解明に取り組んでおり、その関心の高さは出版されている論文数からも窺えます。
![]()
寄生虫とそれが引き起こす病気に対する世界的な研究関心が増加
Web of Scienceを用いた分析では、2000年から2016年の間にToxoplasma属に特化した論文が6,550件発表されている。最近のToxoplasma gondii 研究に焦点を当てた研究では、2003年から2022年の間に19,163件の論文が確認されている。
大阪大学微生物病研究所の山本雅裕先生はトキソプラズマ症の根絶を目指し、トキソプラズマのCRISPRノックアウトライブラリーを作成してトキソプラズマ感染経路の新規因子の探索を始めました。山本先生はご自身の研究のために高度にカスタマイズされた3種類のCRISPRノックアウトライブラリーを使用しました。3種類の遺伝子セット(rhoptry/dense granule、Metabolism、Endomembrane-nucleus)をターゲットにするgRNAがデザインされたCRISPRノックアウトライブラリーは、狙いを絞ったパスウェイの遺伝子を選択的に破壊することを可能にします。ベクタービルダーは山本先生のラボ所有のベクターをベースにして、指定されたgRNAリストを組み込んだライブラリーを構築、山本先生が理想とするCRISPRノックアウトスクリーニングをサポートしました。スクリーニングの結果、山本先生はこれまでの知見を再発見するとともに、今まで知られていなかった感染因子として数多くの新規遺伝子を発見し、トキソプラズマの感染メカニズムを明らかにすることに成功されました。この業績は国際的な査読誌であるCell ReportsとmBioに発表(文末のReference Articlesを参照)され、トキソプラズマ感染メカニズムの解明へと大きな進展となっています。
ライブラリーは疾患のメカニズムおよび治療法を調べるために、主にヒトやマウスモデルで多く利用されています。ですが、山本先生の例にもあるように疾患の原因となる感染生物種に対してもライブラリーを用いたスクリーニングは強力な研究ツールとなります。
![]()
ライブラリースクリーニングを成功させるための事前準備は
- 事前準備の重要性:実験開始前には、使用する細胞株や動物モデルがCRISPRシステムに対して適切な感受性を持つかどうかを事前に評価することが推奨されます。また、gRNA配列の設計時には、既存のデータベースやアルゴリズムを活用し、特異性の高い配列を選択することでオフターゲット効果を最小限に抑えることが重要です。
- 生物学システムの選択:スクリーニング方法はin vitroとin vivoの2つに分けられ、in vivoはさらに直接法と間接法に分類されます。直接in vivoスクリーニングはgRNAライブラリーを標的臓器へ直接送達し、細胞間相互作用や組織構造の維持に有利ですが、複数の動物からサンプルを得る必要があるため技術的に困難です。一方、間接的in vivoスクリーニングでは、in vitroでgRNAライブラリーを細胞に導入し、その後組織へ移植します。この方法は直接送達の制限を回避できますが、移植をサポートする生物学的システムが必要です。in vitroスクリーニングはシンプルで拡張性が高く、初代免疫細胞、神経細胞、不死化がん細胞株などが使用されます。
- gRNAライブラリー設計:gRNAライブラリー設計は、アプリケーションシナリオ、ライブラリーサイズ、各遺伝子に対応するgRNA数、ベクター設計などがスクリーニング成功の鍵となります。CRISPRノックアウトライブラリーは遺伝子を永久破壊することで明確な表現型を生成しますが、主要な生物学的機能を妨害する可能性があります。CRISPRi/CRISPRaは非触媒活性Cas9を使い、必須遺伝子やノンコーディングRNAの研究に適しています。
ライブラリーのカテゴリー:
- ゲノムワイドライブラリー:ヒトやマウスの全ゲノムを標的にする。
- ターゲットライブラリー:特定遺伝子セットや経路を標的にする。
各遺伝子に4~6個のgRNAを用いることでヒット認識が向上し、ダブルgRNAシステムの利用も一般的です。ベクター設計はスクリーニング効果に直結し、Cas9非発現細胞にはCas9とシングル/デュアルgRNA両方の発現が必要です。CRISPRi/CRISPRaではプロモーターやエンハンサー配列を標的としたgRNA設計が求められます。選択的マーカー(EGFPやピューロマイシン耐性遺伝子等)の導入も重要です。
- ベクターおよびウイルス系の選択:レンチウイルスは広範な細胞型で効率的に発現でき、一般的に選ばれます。特定細胞型や体内送達にはAAVが適しています。U6プロモーターの使い分けやデュアルgRNA発現促進などのベクター設計は、レンチウイルスパッケージング時の組換え減少やgRNA発現の安定性確保に寄与します。
- ライブラリーの準備と品質検査:ライブラリーベクター設計後は、gRNAオリゴヌクレオチドの合成・増幅・ベクターへのクローニングを行います。品質検証では、サンガーシーケンシングによるクローン精度の確認後、NGSによる完全検証が推奨されます。NGSリード結果をリファレンスgRNAリストと比較し、カバレッジと均一性を評価します。完全一致リードの割合や分布のパーセンタイル比率などが均一性の指標となります。
このように、ハイブリッドライブラリCRISPRスクリーニングは遺伝子機能や生物学的メカニズム研究の強力なツールであり、成功には生物学的システムの合理的選択、ライブラリ設計、慎重なライブラリ調製が必要です。ライブラリの複雑さやベクター設計は、データ品質に直接影響します。
![]()
最後に
現在、弊社ではより多くのタイプのスクリーニングをより安価に実行できるような環境をお届けするために、既製品CRISPRライブラリー製品の種類も拡充しています。今までは、ヒト・マウスのホールゲノムを対象にしたノックアウトスクリーニング用CRISPRライブラリー製品だけを提供していましたが、今後はパスウェイ特異的なCRISPRノックアウトライブラリーを提供することでよりフォーカスを絞った、柔軟なノックアウトスクリーニングを安価で実行することが可能になります。さらにはホールゲノムCRISPRa(SAM)およびCRISPRiライブラリーやシングルセルスクリーニングを可能にするCROP-seqおよびPerturb-seqライブラリーも提供し、CRIPSR技術を用いたノックアウトスクリーニング以外のスクリーニングも安価に実行可能です。多くの研究者にとって、これらのライブラリーをカスタム作成することは予算的にも非常に難しかったため、これまではやりたくてもできなかったスクリーニングが現実的な選択肢となります。ベクタービルダーは、多くの希望があれば、既製品ライブラリーのラインアップをさらに拡充してより利便性の高い既製品ライブラリーを提供することも可能です。各研究プロジェクトに対してよりカスタマイズされたライブラリーのみならず、ベクタービルダーのアフォーダブルな既製品ライブラリー製品群を活用することで、新しい発見と科学の進展につながっていくことを望んでいます。
ベクタービルダー・VectorBuilderとは
生物・医薬系の研究室では、生命現象を理解するために毎日のように遺伝子機能を調べるための遺伝子デリバリーのツール、ベクターを使用します。昨今の急激な研究の進展スピード、競争の激化のために研究者はいくつものベクターを限られた時間で正確に作成しなくてはいけない状況にあります。その為には、ベクターの適切なデザインや作成の専門的な知識と経験だけでなく、ルーチンワークとして大量のクローニング作業が必要になります。しかしながら、多忙な日々はそのための時間を用意することを許しません。
ベクタービルダーは、短い製造期間と驚くほど手ごろな価格を維持しながら革新的で高品質なベクター受託サービスを提供しています。最適な遺伝子デリバリーソリューションを提案するために、ベクタービルダーはPh.D.レベル以上の「コンシェルジュ」サポートチームを組織してサポートにあたります。さらに、ベクタービルダーはベクター構築だけではなく、様々なカスタムウイルス製造や安定細胞株樹立などのルーチンワークとなりえる作業の受託から、GMPグレードのベクターを臨床研究・臨床試験、及び商用製造もおこなうCDMO(医薬品受託開発製造機構)でもあり、創薬研究から、臨床・商用まで一貫した遺伝子研究の包括的サービスを提供しています。
2014年に、米国シカゴ大学のBruce Lahn教授が起業したVectorBuilderは、世界中の何千ものラボやバイオテクノロジー/製薬会社から信頼を受け、今では評価額10億ドル超のユニコーン企業になるまでに著しい成長を続けています。米国シカゴのヘッドクオーターを置き、ヨーロッパ、英国、オーストラリア、中国、韓国そして日本など10を超える支社から、世界中の研究をアグレッシブにサポートしています。
Reference Articles
An in vivo fitness gene of Toxoplasma, MIC11, is essential for PLP1-mediated egress from host cells Yuta Tachibana, Miwa Sasai, Hidetaka Kosako, Eizo Takashima, Vern B Carruthers, Dominique Soldati-Favre, Masahiro Yamamoto., bioRxiv March 24, 2025 doi: https://doi.org/10.1101/2025.03.24.644834.
Recent advances in identifying and characterizing secretory proteins of Toxoplasma gondii by CRISPR-based screening.
Tachibana Y, Yamamoto M. Parasitol Int. 2025 Apr;105:102997. doi: 10.1016/j.parint.2024.102997. Epub 2024 Nov 23.PMID: 39586398
CRISPR screens identify genes essential for in vivo virulence among proteins of hyperLOPIT-unassigned subcellular localization in Toxoplasma.
Tachibana Y, Sasai M, Yamamoto M. mBio. 2024 Sep 11;15(9):e0172824. doi: 10.1128/mbio.01728-24. Epub 2024 Jul 31.PMID: 39082802
Host genetics highlights IFN-γ-dependent Toxoplasma genes encoding secreted and non-secreted virulence factors in in vivo CRISPR screens.
Tachibana Y, Hashizaki E, Sasai M, Yamamoto M. Cell Rep. 2023 Jun 27;42(6):112592. doi: 10.1016/j.celrep.2023.112592. Epub 2023 Jun 1.PMID: 37269286
行動者ストーリー詳細へ
PR TIMES STORYトップへ