一般社団法人LIVING TECH協会
【暮らしDX最前線(後編)】オープンスタンダード「Matter」が変えるユーザー体験と日本のスマートホーム市場拡大の可能性
2025年12月05日
「人々の暮らしを、テクノロジーで豊かにする。」をミッションに掲げ、2020年に業界横断型、実践的アライアンスの推進により、スマートホームの普及をはじめとする「暮らし領域のDX」を目指すLIVING TECH協会(以下「LTA」)。
2025年6月に、「Matter」等のIoT標準規格を策定するConnectivity Standards Alliance(以下「アライアンス」)とマーケティング連携協定を締結(2025年6月23日プレスリリース)し、日本国内における「スマートホーム」やIoT標準規格「Matter」の普及啓蒙活動を行っています。
前編では、暮らし領域におけるテクノロジーの代表格である「スマートホーム」の普及を進める2団体の成り立ちや、従来課題であったメーカー分断を解決するグローバル共通規格「Matter」についてご紹介してきました。後編では、さらに踏み込んで、Matterの開発秘話やブランディング、今後の展開についてお話しを伺いました。(対談は2025年10月にリノベる。表参道本社ショールームにて実施。記事公開時点で情報が更新されているものは追記。)
左からConnectivity Standards Alliance Chris氏、Connectivity Standards Alliance CEO Tobin氏、LIVING TECH協会代表理事/リノベる 山下智弘氏、Connectivity Standards Alliance日本支部代表/X-HEMISTRY 新貝文将氏
■「完璧でなくて良い!?」Matterの高速進化:ユーザー課題を解決するアジャイルな開発体制
長島:Matterが2022年10月に発表されてから、2025年10月現在でMatter1.4.2までリリースされています。(2025年11月には、Matter1.5がリリース。)半年に1度程度、バージョンが更新されており、この開発スピードはとても速いと感じていますが、これにはどういった意図があるのでしょうか?
Tobin:ご指摘の通り、かなりアグレッシブなスケジュールですね(笑)。私たちは、市場のニーズに応えるために、敢えてこのスピード感で取り組んでいます。先ほどChrisが、初期段階で様々な種類のデバイスや機能領域を定義し、それらが継続的に進化していくようにすることの重要性についてお話ししました。これを導入することで、デバイスメーカーは何がうまく機能し、何がうまく機能しないかを把握し、何を迅速に取り戻すべきかを判断します。そのため、短期で回していくイテレーション能力(システム開発における「設計」「開発」「テスト」といった一連の工程を、短期間で繰り返す開発サイクル)が非常に重要です。
2つ目のポイントは、コミッショニング(機器登録)、セキュリティといった機能を定義することです。これらは、Wi-FiやThreadといった他の機能と並行して行われるもので、得られた教訓を将来のバージョンに迅速に反映させるため、迅速な対応が必要でした。
そのため、最初から完璧になるまで待つつもりはありませんでした。あらゆるデバイスが定義され、数えきれないほどあるユースケースから、解決すべきユースケースが日々検討されています。ですから、決定的に重要な部分をすべて確実に完了させたいと考え、1.0に反映され、非常に良いリリースになりました。あらゆる標準や技術は、実装から学ぶことができます。そのため、私たちは、標準に組み込むべき機能とデバイスタイプの膨大なメニューを用意する作業を進めていました。と同時に、コミッショニング、ネットワークセキュリティの管理など、標準に付随するあらゆる機能の実装も進めており、これらを確実に実行し、実装に必要な知識を迅速に習得できるように努めています。
この半年に一度アップデートをリリースするというアグレッシブなタイムラインは、メンバー企業の皆さんが継続的に協力してくれたからこそ実現できており、素晴らしい成果を上げています。リリースの管理は当面この形で継続することになると思います。また、Matterが成熟していくにつれて、基本的なファンクションではない「ドットリリース」も増えていくと考えています。Matter1.4で採用した「1.4.1」や「1.4.2」が該当します。これらはコアになるリリースよりも市場に合わせた小規模なイテレーションとなるため、今後もこういったマイナーリリースは増えていくと思います。
新貝:後発の規格だからこそ、なるべく早い段階でよりよく使えるようにしていかなければならないというのも半年に1回のサイクルで開発を回し続けている理由のひとつですね。
Tobin:先ほどの説明にもありましたが、Zigbeeをデータモデルとして選択し、うまく機能しているものはこれをベースに開発できているというのもアグレッシブなサイクルを支えている理由のひとつです。
新貝:ちなみに、Chrisが対外的に説明するときは電車を例にしています。日本でいうと、都心部の鉄道で、電車が次々にホームに到着して出発していくイメージです。新しい機能は、基本的にはいつローンチするか決められた中で機能が開発されていきます。予定期日に間に合った機能は、電車に乗ってリリースされて、間に合わなかった機能は次の電車にずれ込んでリリースされていくイメージです。
山下:日本の発想だと、完璧なものにしてからリリースするのが当たり前で、間に合わなかったら完璧になるまでローンチ延期となるケースがほとんどだと思うので、とても意外な考え方で驚きました。特にスマートホーム分野で技術革新が早くて未成熟だからこそ、そうなってるのでしょうか?
Tobin:類似業界では、Wi-Fiアライアンスが同様に決まったスケジュールで動いているので、我々だけが特殊というわけではないんですよ。
山下:そうなんですね。Matterだけが特殊ではなくグローバルではこういった開発サイクルもあることは初めて知りました。我々が一番期待を寄せているのが、Matter 1.4で発表された「マルチアドミン」です。今までは端末やOSやメーカーなどの縛りがあった不便や制限が一気に解消され、メーカー横断で使えるようになるのは非常にユーザーにとってもわかりやすく、スマートホームのハードルが下がるのではないかと感じています。
![]()
長島:Matter 1.4.1ではセットアップの改善もリリースされていますね。以前から、ユーザーがQRコードを読み込んでセットアップできましたが、複数まとめてセットアップできるようになったり、NFCタグ機能で、デバイスにスマホをかざしてセットアップできるようになるようです。スマートプラグなどは必ずしもQRコードがデバイスの表面にあるわけではなく、差込口側にQRコードがあって、電源を入れると隠れてしまいますが、こういったケースでも設定が容易になりますね。
![]()
Chris:私たちのMatterの開発は、常にユースケースから始まります。初めにどんなユースケースがあるかを洗い出し、市場のフィードバックや反響を見ながら、どのユースケースの対応を開発するか定義します。それを実現するにはどんなデバイスが必要で、どんなデータが必要で、どんな機能が必要で、というのを決めていきます。その中で、思わぬ新しいユースケースが現れることもあります。
最近だと、Matter1.4.2のエコシステムで、ロボット掃除機の動作について標準化しました。市場が課題と感じている所を改善すべく、メーカーによって異なる動作を標準化し、よりよいユーザーエクスペリエンスを提供するためです。具体的には、充電ドックに戻る際の振る舞い方(動き方の指示方法)がメーカーごとに違っていたという点に関する改善です。従来は、新しい作業を始める前に現在の作業をキャンセルする必要があるなどメーカーによって挙動が異なっていたのですが、今回の標準化により、どのベンダーでも掃除機の動作が予測可能で、一貫した動作が保証されることになります。
![]()
長島:ユーザー目線のゴール逆算でマーケットインの発想なんですね。
新貝:マルチアドミンは、CEATEC(2025年10月12日~17日、幕張メッセ)で、日本支部でブース出展をするのですが、LTAにも、マルチアドミンでMatter体験ができるブースを企画しました。この企画には、LTAからも織田さんと長島さんにサポートいただきました。
従来は、個別のメーカーアプリで各デバイスをセットアップと設定を行い、プラットフォームごと各メーカーで作ったユーザーアカウント情報を連携させ、微妙に違う設定方法や機能制限に戸惑うことが多かったのですが、マルチアドミンでは、デバイス側が最初からすべての主要プラットフォーム(Amazon Alexa、Google Home、Apple Home )に共通対応することで、プラットフォーム間で動作や機能に大きな差が出ないようになるのに加え、セットアップ手順も共通化され、ユーザー体験が統一されます。
ひとつのデバイスを、複数のプラットフォームで同時に操作できる高度な仕組みが標準で組み込まれているので、ユーザー側は「どのアプリでも同じようにデバイスを使える」という安心感を持つことができます。
例えば、玄関のスマートロックを、iPhoneの「ホーム」アプリから施解錠することもできるし、Androidの「Google Home」アプリから施解錠することもできる。また、家族の誰かが使うAlexaアプリからも施解錠することができる、というように家族ひとりひとりが「好きなアプリで、好きなデバイスを操作する」という本当の自由(パーソナライズ)が生まれました。まだ、改善の余地は大いにありますが、どんどんアップデートされていって、より使い勝手の良い機能になっていくと思います。
Chris:我々の標準化のプロセスは、企業間で合意形成されたユースケースに基づいて進められます。競争を促すため、標準化は多くのメーカーの要望があり、採用しやすいものから設定されます。
新貝:主に仕様を策定できるメンバー企業レイヤーの意見を聞きながら決めていきますが、市場に出してみて反応を見て改善していく形をとっています。Matterは土台となる共通機能は標準化しつつ、各メーカーに対しては競争領域を残すというバランスを取っています。つまり、繋げるところはMatterに任せて、体験の部分を共創領域としてよりよいユーザー体験の創出を狙っています。
山下:水面下のところはMatterで身軽にして、ユーザーに対する提供価値で勝負できるようにするというのは非常によい考えですね。
新貝:はい。今までは、Alexa対応、Google対応、AppleのHomekit対応と個別に開発リソースや認証コストが必要で、さらにセキュリティも自社で対応しなければならなかったのが、Matter対応にすることで、セキュリティ対策も担保されるようになります。これはメーカーにとっても大きなメリットです。
Chris:ちなみに、Matter1.3ではドアや鍵に関する仕様が改善されました。
新貝:スマートロックにはジレンマがあって、Z-Waveに対応しているもののほうが機能的には実は優れていて、Matterでできることのほうが劣っていましたが、これも改良を重ねてよりよい形に進化させています。
Matterはバージョンを重ねるごとに、①デバイスタイプの追加 (対応するスマートホーム機器の種類が拡大)、②機能の追加 (既存のデバイスタイプに新たな機能が追加)、③機能の改善 (既存仕様への機能追加や改善、不具合の修正など)など、品質やユーザー体験も向上させてくれています。この他にも、開発者向けの開発キットやテストツールのバージョンアップなども行われています。
■Wi-Fiのように「当たり前」へ:Matterが目指すブランド認知戦略
長島:続いて「ユーザー視点」で伺います。「Matter」は、メーカーが採用し、対応製品を拡充してくれることも重要ですが、それを使う消費者の理解も必要ではないかと考えています。対応製品のパッケージには「Matterロゴ」がついていますが、Matterについて理解を深めれば深めるほど、一般ユーザーにとっては理解が難しいものではないかと感じることもあります。アライアンスとしては、消費者が「Matter」のロゴを見て製品を購入するような世界観なのか、Wi-FiやBluetoothのように、”当たり前”の裏方の存在として機能する技術を目指すのか、「Matter」のブランディングはどうお考えなのでしょうか?
Tobin:面白い問いですね(笑) 答えはシンプルで「両方」です。初期のWi-FiやBluetoothは認知も高くありませんでした。初期段階では消費者にロゴの意味を理解してもらうことが重要です。消費者がMatterロゴを探し、「信頼できる」と感じてデバイスを選べるようにしたいと考えています。
![]()
一方で、最終的な目標は、Wi-Fiと同じように「動くのが当たり前」という信頼性を完全に確立することです。ユーザーがNetflixのようなストリーミングサービスを見る際に、いちいちWi-Fiの存在を意識しないのと同じように、Matterも意識しないほど完全に信頼される世界を目指しています。
Wi-FiもBluetoothも、20年前には存在していましたが、どう扱えばいいのか誰も知りませんでした。しかし、今は知らない人はいないと思います。誰もがWi-Fiそのものに集中しているのではなく、目的のウェブサイトにアクセスできているのか、見たい映画をダウンロードできているかという、Wi-Fiが機能していることを前提として、目的が達成されているかどうかに気を配ります。Matterも同様に、当たり前に機能して、複雑さの解消に役立っていることを消費者に理解してもらいたいと思っています。
ただ、アライアンスはエンドユーザーに直接語りかける立場ではないので、メンバー企業を通じてユーザーにメッセージを伝え、体験を提供する役割を担っています。メンバー企業は、製品やサービスを通じて消費者と直接的な関係を持つ企業です。
長島:アメリカなど普及が進む国では、一般ユーザーのMatter認知度は高いのでしょうか?
Tobin:一般的な認知度は向上していますが、アライアンスとして市場認知度を調査しているわけではありません。私たちはアメリカではParks Associatesという調査会社と連携し、消費者が何を求めているかというユースケースの理解に注力しています。ヨーロッパでもCCS Insightsを使って同様のことをしています。
Chris:アメリカでは、一部のブロガーなどの消費者は、「Matter以外のスマートホームデバイスは買わない」と表明している例も見られますね。
新貝:日本でも、多くの人がBluetoothで無線でつながるイヤホンやヘッドホンを好んで買うのと似たような選び方ですね。
長島:そうですね。日本ではまだまだこれからですが、CES視察で訪れたアメリカのラスベガスや、9月のIFAで訪れたベルリン市内で市場調査をした際、家電量販店やホームセンターにも「Matter」ロゴがパッケージに表示されているデバイスが多くありましたね。
![]()
(製品パッケージやメーカーHPに表記されているMatterロゴ)
新貝:今、話題に挙がったCESやIFAでもMatterロゴはたくさんありましたね。近い将来、「works with Alexa」や「GoogleHome」「Homekit」などの対応ロゴではなく、「Matterロゴ」のみのシンプルな製品も増えてくるのではないかと思っています。X-HEMISTRYの調査では、2025年5月現在で約30社、100数十デバイスがMatter対応製品として国内販売されています。
ちなみに最近の海外の展示会では、敢えてMatterロゴを表に出さない企業も増えてきて、Matterに対応しているかどうかを聞くと、「当たり前だからわざわざ書かないよ」と、かなり当たり前になってきている印象を受けています。
長島:ユーザープロモーションの観点で課題に感じていることがあります。「スマートホーム」の認知や普及という言葉は、欧米では展示会でも、家電量販店でもホームセンターでも当たり前に使われている市民権を得ている言葉ですが、日本では「スマートホーム」と聞くと、食わず嫌いのように敬遠され、ガジェットオタクのもの、という印象を持たれがちと感じています。
![]()
(海外の展示会や家電量販店・ホームセンターには当たり前にSmartHomeの表記が)
広くユーザーに受け入れられる表現を模索している中、協会の参画企業であるmui Labさんが主体になり、「ぬくもりデジタル」というワードを発表されたのが印象的でした。最近ではインテリア性の高いデバイス製品や家電も増えてきていて、インテリアとの調和、生活空間への溶け込みも意識されてきていると感じます。感度の高い方が使う、インテリアに興味のある方が使うなど、Matterとは違う観点でもアプローチを広げ、ユーザーの裾野を広げていきたいと協会では考えています。
![]()
(2024年12月蔦屋家電二子玉川のトークイベント(左)とGOOD LIFE FAIR 2025(右))
![]()
(2025年11月 広島県 ウェルネスフェスHIROSHIMA)
■Matterが拓く次のフロンティア:エネルギー管理とプロ向け市場「ProHome & Building」
長島:続いて、Matterのこれからの方向性についてお話しをお伺いしたいと思います。対応デバイスの拡充のみならず、最近のバージョンではエネルギーマネジメントや、セットアップ(設定)などもサポートされていますね。この進化の背景や取り組みについて教えてください。
Chris:それについては私から回答しましょう。Matter 1.0は、ドアロック、サーモスタット、スマートプラグなど、従来型のスマートホームデバイスに焦点を当てていました。その後、ワーキンググループはスマートホームの定義を拡大し、ロボット掃除機や空気清浄機、キッチン関連や洗濯機などの家電製品などを追加しています。
![]()
(アライアンスHP資料より引用)
家電製品の自動化が進むにつれて、エネルギー管理は必然的に次の選択肢となってきました。例えば、冷蔵庫のドアが開いていたら通知してくれたり、電気自動車(EV車)の充電器も同じネットワークに接続し、行先までの充分な充電がされているか、スーパーチャージモードにすべきか、オーナーの自分に代わって電力の監視や管理ができるようになります。さらに、電力会社や各自治体がピークコンディションの際に家庭に通知し、家庭側で節電の対応選択を促す(デマンドレスポンス)といったユースケースが考えられます。
Matterは、街を作るための土台、つまりインフラの標準化を作る役割を担っています。これにより、メンバー企業はその上で新しい体験を構築しやすくなります。
![]()
(2025年8月、次世代住宅シンポジウム2025夏のパネルディスカッション:参考資料)
新貝:今、Chrisが言ったように、アライアンスがやっていることは、スマートビルディングやスマートシティの構築に必要なインフラの土台づくりとその標準化だと思っていただくとよいかと思います。例えばレールがかみ合わないとか、道路がつながっていても交通ルールが突然変わると、住んでいる人は混乱します。レールや道路の規格だけでなく交通ルールのようなインフラを整備して、そのうえで、どういう街を造ろうか、どういう体験を提供するかを考えて実行するのはメンバー企業です。
山下:ありがとうございます。最後のご質問です。今年の7月に発表された「Pro Home & Building」も、BtoBのスマートホームの普及に向けたポイントになりそうな気がしています。まだ取り組みが発表されたばかりですが、どのような取り組みになるのか教えてください。
![]()
Tobin:このイニシアチブはとても分かりやすいコンセプトだと思っています。これまでのMatterは、エコシステムやプラットフォームを通じて自分のデバイスを持ち込むのが簡単なシステムで、DIYスマートホームには適していました。しかし、集合住宅や小規模商業ビルで同様のことをするには課題がありますので、「Pro Home & Building」は、これらの特有の課題を解決するための取り組みです。
たとえば、5,000個の照明を短期間で設置しなければならないとか、商業施設などでは、区画ごとのデバイスの搬入設置や、テナントや新しい入居者に所有権をスムーズに移転して運用する方法・仕様などを定義します。 また、これに関わるプロの設置業者についても検討しています。エンドユーザーではなく、第三者やプロの設置業者による運用のための標準化を検討しています。
これは、Matterの幅と奥行きを、住宅を超えた大規模施設にも広げ、プロのユーザー(ハウスメーカー、ビルダーなど)がMatterを使いやすくするためのものです。現在、大手ビルディングオートメーション企業がこの課題に取り組んでおり、Matterをプロの住宅建設で採用したい企業にとっては、今が参加して一緒に定義を定める良いタイミングです。
山下:我々も、住宅業界でのスマートホーム採用を増やすために、スマートホームの企画検討・プラン決定・調達・施工などの体系化(資格や認定制度)の仕組化するための検討委員会を発足しました。我々は住宅に向けての実装という視点ですが、スマートホームは住宅だけでなく、オフィスや施設など建物であれば横展開できるので、イニシアチブがリードして標準化してくださることは、建設・不動産業界にとっても、有益なソリューションになるのではないかと思います。
新貝:「ProHome & Building」は、今年のスマートホーム産業カオスマップ第3版の解説イベントでも言及した、今年の大きなニュースのひとつです。アライアンスからは、「建築業界が電化、接続性、自動化と共に進化する中で、アライアンスは、専門業者によって設置されるスマートホーム市場で製品やそれらを活用する人々へのサポートを向上させるため、アライアンス技術の範囲を拡大させる」と謳っています。
従来、エンドユーザー向けに展開していたMatterがDIY(Do It Youeself)だとすると、この取り組みはDIFM(Do-It-For-Me)です。(アライアンス公式はDFMと記載)世界のスマートホーム市場は、このDIYとDIFMの両方が同時に成長しています。量販店やEコマースでスマートホーム機器を買って、自分で設置したりして楽しむのがDIYで、月額利用料はかかりませんが、不具合が起きたときは自力でなんとかしなければならないのが前提であることに対し、DIFMは、海外ではホームセキュリティ事業者や通信事業者などが提供する「サービス型のスマートホーム」が消費者からの支持を受け、市場としても成長しています。カオスマップにもジャンルを設けている「設置・設定サービス」も提供され、不具合があれば手厚いサポートも受けられるという特徴があります。
スマートホームが普及してくると、「少しお金がかかっても、プロに任せて安心・安定したスマートホーム生活を送りたい」という層も出てきます。携帯電話に例えると、「手厚いサポートならdocomo、自分でやれるならahamo、もっと安くていいなら別の格安SIM」という感じで、収入やスキルに応じた複数の市場が共存するようになっていきますね。
新築や一棟改修の集合住宅などで、まだ入居者がいない状態でスマートホームを設置・設定しておき、入居したらすぐ使えるようにして、退去したら次の入居者に備える、というプロセスを標準化するのがこの取り組みです。建物が建設中や改修中で、電気やインターネットも通っていない環境下で、どうやってスマートホームを設置・設定するのか? という課題に対し、きちんと向き合って、住宅にとどまらず、スマートソリューションを広めていく取り組みです。
※2025年10月15日に、三菱地所が国内の不動産事業者として始めてアライアンスに加盟を発表(プレスリリース)
長島:我々協会が目指す将来像も、スマートホームのソリューションは、住宅だけでなく、建物・施設など不動産全般にも横展開で応用できると思っており、住宅・不動産領域にとどまらずに市場が広がると考えており、それが中長期的に国が推し進めているSociety5.0につながるというストーリーにも重なります。
住宅・不動産領域においては、数年前までは分断されていたスマートハウス(HEMSなどのエネルギーマネジメントシステム)とサービス型のスマートホーム各社も連携していますし、国土交通省の取り組みで、IoT技術を活用した住宅向けの先導性のあるプロジェクトや、市場化(普及)に向けた取り組みに対する補助事業「次世代住宅プロジェクト」なども活用しながら、より多くの住宅関連事業者がスマートホームに取り組めるような仕組みを協会でも作っていきたいと考えています。
![]()
(LTA協会概要説明資料より)
山下:今回のインタビューでは、スマートホームの普及の糸口として期待されている「Matter」について、LTA視点で色々と深堀りさせていただきました。貴重なお話をありがとうございました。
LTAでは、引き続きBtoCでは認知を広げユーザーを増やしていくことはもちろん、BtoBの住宅事業者もスマートホームに取り組みやすい環境を作っていきたいと考えています。これからも様々な機会で一緒にスマートホームやMatterについて、一緒に情報発信をしていければと考えておりますので、今後ともよろしくお願いいたします。本日はありがとうございました。
■総括:スマートホームとMatterの普及の先にある豊かな暮らしの実現に向けて
スマートホームは、単に暮らしの利便性を高めるだけではなく、家事の軽減・時短、防犯・見守り、介護・育児のサポート、さらには省エネやCO2削減など、様々な社会課題の解決に貢献するソリューションです。この分野で重要な役割を果たすのが、オープンスタンダード規格である「Matter」です。
Matterは、従来のメーカーの囲い込みやエコシステムの分断を解決し、「相互運用性」を実現し、これにより、メーカーとユーザーの双方にとって、スマートホームの課題解決とメリットをもたらしてくれます。まだまだ進化の過程ですが、Matterは、Wi-Fiのように、ユーザーが意識しなくても安心・安全・快適にスマートフォンや家電、住宅設備がつながる当たり前のインフラという世界観を目指しており、LTAとしても、BtoC(DIY)、BtoB(DIFM)の両面で、スマートホームの市場拡大と社会実装を加速させる大きな可能性を秘めていると感じています。
LTAでは、スマートホームの更なる普及に向けて、メーカー、新規参入を検討中の事業者、暮らし関連領域でスマートホームとのシナジーを目指す事業者、家電量販店やホームセンターなどの流通事業者、住宅・不動産関連事業者など、幅広い分野の皆様のご参画をお待ちしております。いわゆる競合他社にあたる企業でも、真っ向から敵対するのではなく、手を携えて市場の裾野を広げ、ユーザーの声を拾い、その上で各社が強みを発揮できる環境の整備を進めていきたいと考えています。また、情報発信を共にするメディアパートナーや団体間連携も積極的に進め、市場拡大を促進してまいります。
日本におけるスマートホームはまだ発展途上にあり、規格やデバイス、機器連携の方法だけでなく、ネットワーク環境に関する専門知識なども必要です。建築分野においては、これらに加え、電気工事、住宅建築する上での設計や部材選定など多岐にわたる知識が求められます。
この現状を踏まえ、LTAでは、スマートホームの知識や設計施工、サービスなどを提供していくうえで必要な情報を取りまとめ、BtoCやBtoBの双方に対応できる、スマートホームのコンシェルジュ的人材を育成する資格試験の検討や、スマートホーム住宅の企画・設計・施工に必要な知識やカリキュラムの整備や、設置設定に関する知識などをとりまとめ、認定制度のような仕組みをつくるための検討委員会も発足します。
LTAでは、今後もアライアンスと連携し、リアルな展示会、イベントの体験ブースやセミナー講演、公式ホームページなどを通じて、様々なユースケースを広く発信することで、スマートホームの普及啓蒙活動を中心に、「人々の暮らしを、テクノロジーで豊かにする。」というミッション実現に向けて邁進してまいります。
行動者ストーリー詳細へ
PR TIMES STORYトップへ