株式会社朝日新聞社
報道を支える「人間たちのチーム」をショートドラマで描く 13年ぶりの大型ブランドキャンペーンで伝えたいこと
2025年12月11日
朝日新聞社は、今春からブランドキャンペーン「新しい朝をつくれ。」を展開しています。俳優の松下洸平さん、見上愛さんが記者役を演じ、記事に込める思いや、取材で直面する苦悩を描きました。テレビCMやデジタル媒体での広告を利用した大規模なキャンペーンを展開するのは、13年ぶりです。
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朝日新聞記者役を演じた松下洸平さん(左)と見上愛さん
記者に焦点を当てて発信
ブランドキャンペーンに取り組むことになったのは、朝日新聞に触れたことがある人が減少していることが背景にあります。若い世代では、紙の新聞を読む習慣がない方も多くいらっしゃり、ニュースはSNSや動画サイトなどで触れる人も少なくないと思います。こうしたライフスタイルの変化によって、朝日新聞社に対して「イメージがない」という方が増える中で、私たちがどのような「人間たちのチーム」なのかを対外的に発信していきたい、と考えました。
ブランドキャンペーンに取り組むのは、今年4月に新たに組織ができた「ブランド企画部」という部署です。これまで、広報部や経営企画室で担っていた、ブランド向上に取り組む業務をブランド企画部が担当することになりました。ブランド企画部には、編集局の記者やカメラマン、ビジネス部門の営業担当など、様々な経歴を積んだ社員たちがいます。それぞれの経験から、朝日新聞社の魅力をどう伝えるのか考えた結果、今年度は記者に焦点を当て、どのように記事をつくっているのかを真実に近い形で発信することにしました。
ニュースや記事ができあがるまでの過程を知っている方はどのくらいいらっしゃるでしょうか。私たち新聞社も、その過程を逐一お伝えできていませんでした。できあがった記事が商品であって、その裏側には地道な取材活動があることについて、多くを語ってこなかったように思います。
ある日の朝刊を開くと、24ページの中に102本の記事が載っていました。102本の記事それぞれに、記事が出来上がるまでの膨大な取材活動があります。1本の記事を書くために、様々な場所へ向かい、複数の方からお話を聞いています。そして、記者が取材して書き上げた記事をデスクという監修役がチェックし、取材の過程や記事の中身が正しいかを確認します。ビジュアルで表現するデザイン部、文章をチェックする校閲記者、レイアウトや見出しを担当する編集者というチームが連携することで、みなさんにお届けするニュースになっています。
記事になるのは、記者たちが見て聞いた話のごく一部です。記事の裏側には、没になった取材、記事の信頼性を補完するために確認した取材など、記事にはならなかったプロセスがたくさん含まれています。
今年4月現在、朝日新聞社には3,742人の社員がいます。このうち、1,692人が記事を書いたり、写真を撮ったり、校閲作業をしたりする「記者」です。国内には151、海外には27の拠点があり、毎日全国各地で記者たちが取材にあたっています。1879年に創刊し、これまで5万号以上の新聞を発行し、嵐の日も雪の朝も新聞をお届けしてきました。
ショートドラマで取材活動を伝える
様々な媒体やSNSがあり、虚実が入り乱れている世の中において、記者たちが地道な取材活動を経て記事を書き上げていることを知っていただきたい。また、取材活動や記事を出すことによって、世の中をより良くしたい――。そんな思いを持って、毎日記者たちが取材にあたっていることをショートドラマという形で描くことにしました。
ショートドラマの舞台は、実際に朝日新聞で掲載した「8がけ社会」と「水難事故マップ」という企画にしました。
「8がけ社会」は、2040年に現役世代が今の8割になることをクローズアップしています。人口減社会で表出する問題点を指摘するだけでなく、当事者のみなさんと一緒に考える企画で、2年近く続けている長期連載です。
「水難事故マップ」は、膨大なデータを集めて、水難事故が起きている場所を日本地図に落とし込み、危険な場所を啓発する企画です。これまでの報道では、事故が起きたことを伝えてきましたが、水難事故が多発している場所を知ってもらうことで、これから起こるかもしれない事故を未然に防ぎたい、という思いが込められています。
インターネットにあふれるニュースの中で、訓練を積んだ記者たちが自分たちの足をつかって取材してきた記事があることを知ってもらいたいと思っています。私たち、朝日新聞社だからできること、朝日新聞社だからお届けできることを積み重ねていきます。
■ドラマのモデルになった記者たちの思い
「8がけ社会」にこめた思い
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見上愛さんは、入社5年目の若手記者「春田あやめ」を演じました。人口減社会にどう対峙するかを当事者のみなさんと一緒に考える「8がけ社会」という実際の連載記事をテーマに、春田が成長する物語です。取材した方から、「マスコミは、向こう岸にいる。外から指摘するだけで、こちら側に立っていない」と言われ、苦悩する姿を描きました。8がけ社会の取材班の若手記者から話を聞き、脚本を書き上げました。モデルの1人となった社会部の太田原奈都乃に、取材に込めた思いを聞きました。
一緒に考える「8がけ社会」報道 社会部・太田原奈都乃
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少子高齢化によって、働き手となる現役世代が減り、生活が立ちゆかなくなる――。そんな将来を「8がけ社会」と名づけた企画班で取材をしてきました。
地方総局に勤務していた際に、日々の取材で高齢化や人口減少は肌で感じていました。「8がけ社会」の取材班に加わって初めて、人口減社会を正面からきちんと考えることになりました。
取材に訪れた地方の現場で目の当たりにしたのは、すでに「8がけ社会」に直面しながらも打開策を模索し、体現しようとする人たちの姿でした。
北海道・釧路市へ取材に行った時のことが印象的です。津波避難場所がなく、早期避難率が低いという最悪の場合、日本海溝・千島海溝沿いを震源とする巨大地震による釧路市の犠牲者数は、人口の半数超の約8万4千人に及ぶと予想されています。この予想は、北海道内で最多の犠牲者数という見込みです。半数以上が高齢者で、避難に不安を覚える現場のみなさんは、取材を受け入れていただけないのではないかと思っていたのです。ところが、いざ取材にお邪魔すると、「ぜひ書いてください。厳しい現実ですが、一生懸命取り組んでいるということを知ってほしい」と言っていただき、協力していただきました。
実際に取材をしてみると、悲観しているだけでなく、ポジティブな変化を起こしていることがわかりました。「8がけ社会」では、問題点を批判して指摘するだけでなく、地域の人と一緒に話し合うイベントを開くなど、一緒に考えていっています。
取材した自治体だけでなく、人口減社会に直面する自治体は全国にあります。一緒に企画を練ったベテラン記者は、これまでの報道で「もっと声をあげることができたはず」と悔いていました。取材を通じて、私も「8がけ社会」の当事者なのだ、と感じるようになりました。「8がけ社会」の取材班は、取材結果を持ち寄り、どのような課題解決の方法があるのかを真剣に話し合っています。現場のみなさんと同じように私たちも考え、傍観者ではなく当事者として取り組もうとしています。
ショートドラマの中では、春田記者が記事を読んだ方からお手紙をもらうシーンがあります。私も地方にいた時から、お手紙やお電話をいただき、それが励みになりました。ご指摘やご批判をいただくこともありますが、そうした反響を含めて反応いただけることがうれしく思っています。
初めて赴任したのが、岩手県でした。東日本大震災の被災地を取材しましたが、大切な人を亡くした方、教訓を伝え続ける方からお話を聞かせていただいたことが、記事を書く原点です。
私の同世代では、新聞を読まない人が多くいます。「上から目線」と言われることもあります。記事を書くときには、課題を指摘するだけでなく、より良くする方法を探し、示すことを大切にしています。記事を読んでくださる方にも、自分にできることを考え、誰かと話してみたくなる、そんなきっかけをお届けできるといいなと思います。
「水難事故マップ」にこめた思い
松下さんは、水難事故を地図に落とし込み、日本中の危険な海や川の場所を可視化する「水難事故マップ」の取材に取り組む中堅記者「江崎大輔」を演じました。江崎記者は、ある水難事故の記事をきっかけに、海や川の膨大なデータの分析に着手します。データから導き出した危険スポットを実際に訪れ、どのような危険が潜んでいるのかを取材します。膨大なデータを分析し、そこから新たな事実を見つけ出す「データジャーナリズム」に挑む様子を描いています。
江崎記者のモデルとなった、デジタル企画報道部の記者、山崎啓介が水難事故マップに込めた思いをご紹介します。
「データジャーナリズム」で命を守る デジタル企画報道部・山崎啓介
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2008年に、エンジニアとして入社し、記者が記事を書くシステムの担当をしていました。その後、地方で記者経験を積み、現在は記者とエンジニアの二足のわらじを履いています。
デジタル企画報道部という部署で、データジャーナリズムに取り組んでいます。人身事故がたくさん起きているのに、なぜか、「全国交通事故多発交差点マップ」のランキングに入ってこない交差点がある――。警察庁が公開している全国の人身事故データを分析することで、そんな「みえない交差点」があることを突き止め、報じました。警察庁が公開した全国100万件の交通事故データを見える化し、事故が多発しているのに統計から漏れている交差点があることを掘り起こしました。
私たちの報道を受け、警察庁は、名前のない小さな交差点も集計に含めるよう全国の都道府県警に周知。事故発生地点の緯度経度から危険な交差点を抽出できる解析ツールを開発して配りました。その結果、事故多発交差点マップでは、神奈川県や千葉県、静岡県などで、これまでランクに入っていなかった小さな交差点が上位に入りました。
私たちの報道が、事故や被害者を少しでも減らすことに役立ったのだとしたら、こんなにうれしいことはありません。
第二弾で何かできないか、と着目したのが水難事故です。ショートドラマの中でも描かれていますが、データの分析が進むと毎週のように現場へ向かいます。データや専門家への取材で、ここに着目するというポイントを見極めます。数字だけでは見えないことを取材するために現場へ行きます。全国各地へ行かないといけないので、数人のチームで手分けをしました。私が向かったのは、沖縄県、千葉県、静岡県の3カ所です。地元の人に取材し、事故を目撃したことがあるかなどを聞き込みました。水難事故が多発している現場では、「離岸流に注意」といった看板が設置されていました。それなのに、水難事故が起きている。だからこそ、多発している地点を可視化し、地元の人だけでなくこれから旅行で訪れる人に事前に見てもらうことで予防できるのではないかと考えました。
データジャーナリズムは、人の思い込みを排除し、常識に反することが見つかることがあります。「みえない交差点」では、事故が多いと認識されていない場所で実は多発していたことがわかりました。エンジニア出身ということをいかしながら、データジャーナリズムを通じてこれまでみなさんが知ることがなかったことを伝えることで、社会を良くしたいと考えています。
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