三木楽器 株式会社

皇太子殿下ご生誕を記念し、昭和9年に誕生した一台のピアノ -91年の時を経て、倉敷で再び音を奏でるまで-

2026年01月20日

岡山県倉敷市歴史民俗資料館に展示されている一台のグランドピアノ。

昭和初期に製作されたこのピアノは、長年にわたり地域とともに歩んできました。


このピアノは、昭和8年12月の皇太子殿下(現・上皇陛下)のご生誕を記念し、昭和9年に製作された「三木平台ピアノ記念型」です。

当時製作されたのは、わずか24台。そのうち、現存が確認されているのは、この1台のみといわれています。

なお「平台ピアノ」は当時の呼称で、現在のグランドピアノにあたります。


倉敷市立倉敷幼稚園で、約60年にわたり教育現場で使用されてきました。

昭和51年、園舎の老朽化に伴い建物は移築・復元され、現在の倉敷市歴史民俗資料館(登録有形文化財)となります。



▲倉敷市歴史民俗資料館


ピアノは平成3年まで新しい園舎で使用された後、資料館で展示されてきました。

来館者が自由に演奏でき、地域の人々に親しまれてきましたが、長年の使用により部品の劣化が進み、次第に演奏が難しい状態となっていきました。

修復のきっかけは、前園長の記憶と熱意から

倉敷幼稚園の前園長・横田昌子さんは、教諭として赴任した当時をこう振り返ります。


「子どもたちと資料館を訪れて、ピアノの音色を楽しんでいました。古くて鍵盤も思うように動かなかったけれど、見た目がどこか特別で、一般的なピアノとは違うと感じていました」


横田さんは、このピアノが貴重な存在ではないかと感じ、また演奏ができる状態になるよう、関係者に相談したこともありました。しかし、経年劣化が進んでいたことから、破損のリスクも懸念され、調律や修復には至りませんでした。


それでも思いは消えず2025年3月、ピアノの解説文に記されていた購入先、当社「三木楽器」へ相談。そのご意向を受け、当社から製造元である「河合楽器製作所」へ相談し、両社で調査を実施。その結果、極めて希少な昭和初期のS.MIKI(三木ピアノ)であり、文化的・歴史的価値を有することが確認されたため同年7月、連携して修復プロジェクトが動き出しました。


《 S.MIKI(三木ピアノ)とは》

三木楽器は明治35年(1902年)に輸入ピアノの取り扱いをはじめ、さらに翌年に山葉ピアノの販売を開始したことで、鍵盤楽器事業を本格化させました。1920年代には国内でピアノ需要が高まる中、三木楽器では安定した仕入れ体制の構築を進めるなかで、昭和2年(1927年)に河合楽器製作所(当時、河合楽器研究所)を設立した「河合小市」氏の卓越した技術力に着目。天才技師として名を馳せた河合氏の技術力は高く評価されていましたが、設立間もない当時はまだ広く知られていなかったため、カワイ製のピアノやオルガンを、ブランド名「S.MIKI」として商品化したのが始まりです。


▲三木ピアノ記念型 当時のパンフレット

資料館所蔵の同型の平台ピアノも掲載されている

修復の方針と作業内容

修復にあたっては、長年愛用されてきた歴史を感じさせる外装についてはそのまま保存しながら、演奏に支障のある部分を中心に修復を行うことを基本方針としました。当時の製作技術や構造上の特徴を尊重しながら、地域の皆さまが安心して演奏できる状態を目指しました。


《主な作業内容》

【交換】

全ての弦、チューニングピン、ダンパーフェルトの一部、鍵盤クロス、アクション部品のクロス・フェルト

【調整】

ダンパー機構、鍵盤および打弦機構各部の摩擦調整、ハンマーファイリング

【清掃】

響板を含む全パーツ

【修理】

欠けた鍵盤象牙部分


修復後、調律・整調・整音を行い、10月下旬に資料館へ戻されました。資料館到着後には調律を安定させるために、続けて3度の調律を行いました。


▲河合楽器製作所 竜洋工場での修復作業の様子


左:修復前 右:修復後

▲長年の使用によって欠けていた鍵盤は、当時の風合いを損なわないよう修復された


左:修復前 右:修復後

▲外装は磨きのみで、艶と表情を取り戻した


左:修復前 右:修復後

▲内部のサビやホコリも丁寧に取り除かれた

引渡し式で地域のみなさんとともに祝う

修復完了を記念し2025年11月5日、倉敷市歴史民俗資料館において「引渡し式」が執り行われました。倉敷市関係者、倉敷幼稚園関係者、資料館関係者、修復に携わった河合楽器製作所および当社の関係者が出席し、修復に至る経緯やピアノにまつわる思いが共有され、倉敷幼稚園の園児による歌唱の披露があり、和やかな雰囲気のなか完成を祝うひとときとなりました。


式典に出席した倉敷幼稚園同窓会関係者からは、「長年にわたり子どもたちの声とともに歩んできたピアノが再び音を奏でること、そして今後もピアノの周りに人の輪が繋がっていくことが楽しみです」という声が聞かれました。


また倉敷市 生水哲男副市長より、河合楽器製作所と当社に感謝状が贈られました。




再び音を響かせ、次の世代へ

修復は、このピアノにとっての「終わり」ではなく、新たな役割の始まりです。

今後、倉敷市歴史民俗資料館では、来館者が音楽に触れる機会への活用が検討されています。展示物として保存されるだけでなく、実際に音を奏でることのできる文化財として、このピアノが再び人と人をつなぐ存在となっていくことが期待されています。


91年前、未来の子どもたちを思い迎えられた、三木平台ピアノ記念型。

その音色は時代を超え、これからも倉敷の文化のなかで受け継がれていきます。

この取り組みを通じ、私たちもまた、音楽や楽器が持つ価値を地域や社会へ伝えていく役割を担っていきたいと考えています。


▲新しい解説文のサインが添えられ、来館者を迎えるピアノ






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