埼玉工業大学
「深谷バスサミット」に埼玉工業大学の太川陽介特命教授(自動運転バス)が登壇、「一生バスと関わっていく」と誓う
2026年03月23日
<写真:特命教授(自動運転バス)太川陽介氏の登壇>
バスの自動運転の研究開発を続ける埼玉工業大学(埼玉県深谷市)が主催し、自動運転バスなど「これからの移動の在り方」について考える「深谷バスサミット」が2月19日に深谷市民文化会館で開かれました。昨年5月に同大学で初めて任命された特命教授(自動運転バス)に就任した、路線バスで旅する番組でもおなじみの俳優・タレント、太川陽介さんが生徒役で登壇。同大の教授や専門家から路線バスの最新事情や将来的に描かれる路線バスの姿などを学びました。
<写真:サミットの会場風景>
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<図:深谷バスサミット開催案内ポスター>
太川さん「バスに乗ってる人です」
サミットには、埼玉工大の自動運転技術開発センター長の渡部大志教授をはじめ、産官学の関係者が登壇しました。
今年創立50周年を迎える埼玉工大の内山俊一学長は「地域交通は私たちの暮らしに欠かせないテーマ。自動運転システムは単なるテクノロジーではなく、高齢化が進む地域社会で移動の自由を守るための社会インフラであり、地域の未来を支える重要な基盤」と挨拶。同じく芸能生活50周年の太川さんを「全国各地で元気や笑顔を届けて来られた歩みは、まさに地域をつなぐ存在」としました。
<写真 上:埼玉工業大学 内山俊一学長、下:同 渡部大志副学長>
これを受けて登場した太川さんは開口一番、「こんにちは。バスに乗ってる人です。今はちゃんと俳優と紹介してもらいましたが、最近はもう、僕の本職がバスに乗る人だと世間で言われています」と会場を笑わせました。
太川さんが出演する路線バス旅の番組は、2007年に放送開始。「始めた当初、こんなバスサミットに自分が参加することになるとは。バスと僕の人生が関わるなんて夢にも思っていませんでしたが、もうここまで来たら死ぬまでバスと関わっていこうと、今日この機会に心を決めました」と高らかに宣言し、「そのためにもバス、公共交通についても一緒に学ばせていただこうと思います」と話しました。
<写真:太川陽介特命教授の登場>
路線バス網、バス運転手減少の中、自治体は頑張っている
地域交通を取り巻くさまざまな課題を考える「バスサミット」。地域の公共交通の充実は深谷市にとっても重要な政策課題で、小島進市長も重大な関心を寄せています。
小島市長はビデオメッセージで「公共交通は地域の将来を考える上で欠かせないテーマ」と指摘。地域コミュニティバスに埼玉工大の自動運転バスを他に先駆けて導入したことを誇り、「交通の新たな可能性を切り開く重要な選択肢の一つ」と述べました。
<写真:ビデオメッセージで登場の深谷市・小島進市長>
講義は国土交通省関東運輸局自動車交通部長の佐藤直人さんからスタート。佐藤さんは日本の地域交通の現状として、国内の地方都市の1994年と2022年のバス路線網を紹介。前者は15分に1本は来るバス路線が多いのに対し、後者ではこれが激減。30分に1本もしくはそれより少ないバス路線が増え、郊外では路線そのものがなくなった地域も。
要因の一つは新型コロナウイルス禍。全国で年間40億人いた路線バス利用者が30億人まで減り、コロナ後に回復傾向にあるものの、コロナ前の水準には戻り切っていないそう。乗る人の減少で2023~24年にかけて廃止路線が増加したことに加え、約13万人いたバスの運転手も、残業時間や拘束時間低減といった働き方改革の進行に加え、全国の4分の3のバス事業者が赤字で運転手の年収が全産業平均より低いことも相まって、11万人程度に減少したとのこと。国はバス運転手の給与を上げる取り組みを後押しするほか、退職自衛官の再就職支援でバス運転手を増やしたり、若年層が大型免許を取得しやすくする規制緩和を手掛けたりしています。
<写真:国土交通省 関東運輸局自動車交通部長・佐藤直人氏>
また公共交通機関へのアクセスが難しい「交通空白地域」が全国に2000以上あり、そこに約1400万人が暮らすことも紹介。今後3年間で、交通空白解消にめどを立てることを目指しており、その方策のひとつに自動運転があるといいます。
太川さんはバスの減少を実感しており、「千葉には内房の浜金谷から、外房の鴨川に1本で行ける路線バスがありましたが、廃線になりました。群馬県玉村町でもロケに行った3日後に廃線になった状況などを目の当たりにしています」と話しました。
佐藤さんは「公共交通の路線網がなくなると住む人の生活問題となって、行政が我が事として対応しなければいけないとマインドが変わってきた」と説明。太川さんも「自治体は頑張ってます。(路線バスではなく)コミュニティバスは増えてるんですよ」と明るい兆しがあることも付け加えました。
廃路線の復活が太川特命教授の遅刻を救った?
続いて地元のバス会社「深谷観光バス株式会社」社長の高田勇三さんが登壇。路線バスには大手鉄道などの系列会社が多い中、深谷観光バス株式会社は、昭和30年代、深谷町(当時)の町会議員や有志が参画した株式会社として設立されました。
全国的な路線バスの減少の中、深谷市でも乗車人員の減少やコスト高、人手不足を理由に2018、2020、2023年に複数の路線が廃止されました。このうち他社が運営していた2路線を深谷観光バスが現在、復活させています。
<写真:深谷観光バス株式会社 代表取締役社長・高田勇三氏>
太川さんがYouTubeで開設している「ルイルイちゃんねる」で昨年11月、群馬県太田市から埼玉工大に向かう際、途中で乗り換えた路線バスが、深谷観光バスが復活させた路線で、この路線バスがあったからこそ、特別講義に遅刻せずに済んだ太川さんは「ありがとうございます」と感謝していました。
路線復活は、地元に深いコネクションを持つ企業だからこそ実現。社員や生徒の送迎専用バスを民間用バスにし、送迎に使われる朝夕の時間帯以外を路線バスとして利用しており、送迎バスと、路線バスと組み合わせた運営を実現。太川さんも「スクールバスの利用は他(の自治体)でもありました。そういうアイデアってすごい」と感動していました。
続いて登壇した渡部教授は、埼玉工大が取り組んできた技術開発について、2011年から障害者を支えるモビリティである「ジョイスティックだけで動かせる自動車」を開発。路線バスの自動運転のみならず、離島を支えるモビリティを作るなどの実績があることを説明。自動運転バスを路線バス活用を広めるため、深谷市の地域通貨である「ネギー」で乗車できるキャンペーンや、故郷の偉人である渋沢栄一翁ゆかりの地を巡る自動運転バスが運行されたことなども紹介しました。
<写真 上:渡部大志副学長のプレゼン、下:自動運転バスくるりん>
自動運転バスの技術の進化を目の当たりに 太川特命教授も感動
その後、ティアフォー株式会社 社会実装事業推進部部長の柏田庸介さん、アイサンテクノロジー株式会社 取締役の佐藤直人さん、A-Drive株式会社 代表取締役社長の岡部定勝さん、株式会社ケー・シー・エス 執行役員未来創造本部長の佐野正さんが続々と登壇。
ティアフォー株式会社は、自動運転システム「Autoware」を基盤としたシステム開発・運用を行い、今まで39都道府県103地区町村で自動運転の実証実験を行ってきました。条件付きにはなりますがシステムが全ての操作や監視を行う無人での「走行環境付与」、すなわち自動運転レベル4の認可についても、神奈川県相模原市、長野県塩尻市、石川県小松市の3か所で実績があります。
深谷市で運行されている自動運転バスは、BYD製のバスをティアフォーが改造。レーザーを利用して歩行者などを見る「ライダー」、電波を利用して障害物検知や距離測定を行う「レーダー」、周りの様子を撮り、検知した障害物の判断や信号の色を判断する「カメラ」といった通常のバスにはないセンサーが多数付けられており、「安全な走行をするため、センサーの数は多くならざるを得ない。結果として、センサー機器を含めた改造費が高額になってしまう」と柏田さん。「(自動運転バスの)台数が増えていけばその分価格が下がる」と期待を寄せました。
<写真:ティアフォー株式会社 社会実装事業推進部部長・柏田 庸介氏>
アイサンテクノロジー株式会社は全国の3D地図を整備している会社。3D地図は高精細で、前方の信号や停止線の位置まで分かると言い、地図から必要な情報を車にインストールすることで自動運転が可能になるそうです。
深谷市を含めて全国26カ所で自動運転の社会実装を進める中、長野県塩尻市で「自動運転レベル4」の認可を取り、3月から実際に運行。三重県桑名市の遊園地「ナガシマスパーランド」でも、観光地への移動をレベル4の自動運転バスで行う認可を近く取るそうです。
深谷市でも遠くない時期にレベル4を目指すそう。レベル4の自動運転バスが路上駐車を回避する際の映像に太川さんは「よけ方が綺麗」と感嘆した様子でしたが、佐藤さんは「判断がまだ人間に比べて遅い」と今後の課題も口にしました。
<写真:アイサンテクノロジー株式会社 取締役・佐藤 直人氏>
自動運転車両を実際に公共交通路線で走らせる際、計画策定から車両・ドライバーの調達、通信や保険に加え、メンテナンスなどをクリアしなくてはなりませんが、各企業と連動してこれらをこなすのがA-Drive株式会社。岡部さんによると、世界ではバスより「ロボタクシー」と呼ばれるタクシーの自動運転が多く、公共交通での取り組みは「日本が先行している」そうで、特に深谷市は産官学が一体となった非常に稀有なケースといいます。
自動運転の技術と並んで重要なのが「社会需要面と経営面」と岡部さん。長野県塩尻市が市教委や小学校と連携し、小学生を対象とした自動運転の講座を行って社会需要を創出している例を紹介し、「子どもたちが自分の未来の姿やふるさとの未来を思い描いていた」と話していました。
<写真:A-Drive株式会社 代表取締役社長・岡部 定勝氏>
株式会社ケー・シー・エスは自動運転バスの持続可能な事業モデル構築を行う会社。深谷市でも地域特性や地域資源を生かして深谷市ならではのモデルを作ることが重要です。
公共交通は今や「行政、民間企業、利用者の3本柱で公共交通を支える時代が目前に来ている」と佐野さん。来場者にも自動運転バスで思い描くサービスや移動体験のアイデアを募りました。
<写真:株式会社ケー・シー・エス 執行役員 未来創造本部長・佐野 正氏>
太川さんは「バス旅を始めた頃、ある山間の村の始発バスに新聞が積んであり、途中の集落に届けたんです。バスって人だけじゃなく物も運べる。昨年、JR九州の初代社長だった石井(幸孝)さんとお話しした際、山陰に新幹線が伸びるなら、物流の新幹線にするとおっしゃっていた。バスも人だけじゃなく(物流にも)利用できるんじゃないかな」と思い出を交えた提案をしました。
「バスの魅力は……」 太川特命教授が質問に答える
講義終了後、事前に来場者から募った太川さんへの質問に本人が答えるコーナーも。
「そもそもバスの魅力は」との質問には「利便性ですよ」と即答。「バスって家からも身近だし、目的地に近いところまで行ける。小回りが利いて一番身近な公共交通」と述べ、「普段、車を運転していると気付かない街の風景に、バスに乗ると気付きます」とも付け加えました。
<写真:太川特命教授への質問コーナー>
「今までで1番過酷だったバス旅の思い出」というお題には、「しまなみ海道」を挙げました。「島と島の間は全部高速バスなんで、そこは(ルール上)歩かなきゃいけない。しまなみ海道は高いところにあって、島に行くと下りて、また上がらなくちゃならない。それで1日に23㌔ぐらい歩いたのかな?」と振り返りました。
太川さんは「バス旅を見ていただけるうちは続けますよ。歩くのがしんどくなったらちょっとルールを変えてもらったりして、それでもバスと関わっていきたい」と路線バス旅の「生涯現役」を宣言し、大きな喝采を浴びました。
1通のメールがきっかけで 埼玉工業大学と連携
太川さんが埼玉工業大学と縁を持ったきっかけは、1通のメールでした。渡部教授が連日遅くまで自動運転の研究・開発を続けている様子を見ていた人間社会学部情報社会学科の本吉教授(自動運転技術開発センター兼任教員)が「自動運転バスの認知向上を一緒に考える中、渡部先生と『是非、太川さんにも乗ってほしい』いつも話していたことがきっかけ」といいます。
太川さんはメールに感謝し、「皆さんが頑張って研究をされているから、ちょっとでも励みになれば」と受諾。この言葉に本吉教授は感激の涙を流す場面もありました。
太川さんは路線バスの旅では46都道府県を訪れていますが、残る沖縄県は「すごくバスが充実していて、簡単に(目的地に)行けちゃうので番組にならないんです」と舞台裏を明かしました。また、郊外型の大型チェーンやショッピングモールの進出で、バスの窓から見える沿線の風景は「日本の国内はどこに行っても変わらなくなりました。原風景をあまり感じなくなった」と残念な様子も。
バス旅での現場での経験から分かる気付きなどを渡部、本吉両教授が太川さんから聞き取り、3人の共同研究としてウェブ上で近く公開する準備を進めており、太川さんと埼玉工大との関わりは本格的に続いています。
<写真:バスサミット囲み取材後の記念写真>
「歌声サロン」で自動運転バスを活用
バスサミットでも問われた、自動運転バスを支えていく活用法の一つがすでに深谷市で実現しています。地域活動の「歌声サロン深谷」との連携です。
サロンの世話人との連携を務める高田勝行さんは「若い人はバスにあまり乗らないし、現役世代は通勤で使っても楽しみのためにバスに乗らない」とした上で、毎月継続的に開催されている「歌声サロン深谷」の参加者を対象に、自動運転バスの特別試乗会を2025年11月から翌年2月にかけ、6回に分けて実施されました。歌声サロンでの活動後、ツアーガイド付きの自動運転バスに毎回20人、計120人が自動運転バスを体感。歌声サロンの会場である深谷市民文化会館から渋沢栄一の生家である「中の家」を往復する約2時間のコースに「毎回、予約が殺到し、“即完売”するほどの人気でした」と高田さん。往路では、自動運転に関する説明も行われ、高齢者の自動運転に対する理解も深まったようです。
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<写真:歌声サロン参加者の記念写真>
高田さんは「自動運転の説明は比較的高度な技術の話もありますが、皆さん関心を持っていました。自動運転バスという新しい技術をどう受け入れてもらえるかは本当に大事。技術的にはかなり確立してきましたが、世の中に本当に受け入れられるかの岐路に立っているところだと思います」と話しました。
<写真:歌声サロン自動運転バス車内>
●関連情報
深谷バスサミット開催案内
https://www.sit.ac.jp/news/260127_bus/
自動運転特設サイト
埼玉工業大学 工学部情報システム学科 自動運転専攻
https://www.sit.ac.jp/gakubu_in/kougaku/self-driving/
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