公益社団法人2025年日本国際博覧会協会

「ホタテの貝殻をアップサイクル」ベンチ作りで世界の廃棄物課題の解決をめざして

2025年03月13日

甲子化学工業株式会社は、2025年大阪・関西万博の「Co-Design Challengeプログラム」で、廃棄されたホタテ貝殻を活用したサステナブルなベンチ「HOTABENCH」を提供する。リサイクルによって生み出されるテクスチャと、ホタテのようなシルエットを通じて、見る人や座る人に新たな循環資源の未来を提案する。また、大阪府東大阪市の甲子化学工業株式会社と東京都江東区の清水建設の拠点で、「HOTABENCH」の製造プロセスの学習及び、その一部を体験できる教育ツアーを実施する予定だ。そのプロジェクトについて、3回のシリーズ企画で迫る。


※シリーズ記事は、「Co-Design Challengeプログラム」のホームページに公開しています。各記事は、取材時点の情報のため、プロジェクトの進捗や開発状況によって当時から変更となった点などが含まれます。




「ホタテの貝殻をアップサイクル」ベンチ作りで世界の廃棄物課題の解決をめざして Vol.1

ホタベンチの試作品(座面以外)


「大阪・関西万博はすごい。世界から注目されている」。大阪市のプラスチック加工会社「甲子化学工業」の企画開発部長・南原徹也がそう感じたのにはわけがある。行き場を失っていたホタテの貝殻を原料にした同社の「ホタベンチ」がCo-Design Challengeで万博会場に設置されるベンチの一つに採用された時のこと。ベンチ誕生は、ひと足先にCo-Design Challengeで万博の防災用公式ヘルメットの一種に採用された「ホタメット」への大反響がきっかけだった。


南原が独自開発した「ホタメット」は、ホタテ漁の盛んな北海道猿払村などで廃棄処理に苦労していた貝殻に価値を見いだし、それを生かした「アップサイクル」物品だ。ヘルメットの万博採用が決まった直後、南原のSNSに驚くほど多くの声が寄せられた。「どこで手に入れられますか」「一緒に事業をしたい」。韓国やアメリカなど海外をふくめ、さまざまな団体・企業から問い合わせが相次いだ。その一つに目が留まった。「清水建設」(本社・東京)からの「ホタテの貝殻をセメントと混ぜて新素材をつくりたい」との申し出だった。


モノづくりに情熱を傾ける者同士、清水建設で3Dプリンターを担当する技術者、小川達也とすぐに意気投合した。目標を「万博会場でくつろいでもらえるベンチ」と定め、セメントや砂との配合実験、設計・デザインの打ち合わせを矢継ぎ早にこなした。南原は、それぞれの強みを持ち寄り、本音をぶつけ合う制作現場が心地よかった。「スピード感が違う。本当に楽しい」。数か月後、試作品が仕上がった。1人がけで、高さは約50センチ。半球に近いかたちの背もたれは、ゆるやかに波打つデザインだ。「ホタテ貝をイメージさせるだけでなく、強度を高める効果もある」と小川。南原も「外敵から身を守る貝殻のかたちは理にかなっている。自然界のすばらしさを改めて感じる」と話す。


町工場と、大手ゼネコン。それぞれの技術力を掛け合わせ、ニッポン発の「未来のデザイン」が誕生した瞬間だった。


甲子化学工業 企画開発部部長 南原徹也さん

清水建設 生産技術本部 小川達也さん




「ホタテの貝殻をアップサイクル」ベンチ作りで世界の廃棄物課題の解決をめざしてVol.2

セメントと白いホタテの貝殻を粉末状にしたパウダー


「座面はやわらかい素材にしよう」「色合いは自然なオフホワイトがいいかな」。「ホタベンチ」の試作品を前に、小川との検討をさらに重ねながら、南原は「未来のデザイン」が全国に広がっていく光景を思い描く。大阪・関西万博の会場には5脚を置く予定だ。国内外からの来場者たちに見て、触れてもらえる。そして、廃棄物に価値を見いだし、生かす「アップサイクル」のすばらしさを体感してもらえるだろう。


すでに量産のめどは立っている。「会期の後、ホタテの貝殻を提供してくれる北海道猿払村など、全国の公園に置いてもらえたら。地域に還元でき、貢献できる」。ひと足先に開発を進めている「ホタメット」はホタテの貝殻をパウダーにしてプラスチックと混ぜるが、ホタベンチは大量のセメントと混ぜる。貝殻の処理量が、ぐんと増える。


南原は、猿払村をはじめ、オホーツク海沿岸の10を超える自治体やホタテ漁の関係者を訪ね歩いてきた。どこも、うずたかく積まれた貝殻の処理に困っていた。さらに、三重県のアコヤガイ(真珠貝)養殖の関係者も、滋賀県の琵琶湖のシジミ漁関係者も、同じ課題を抱えていることがわかった。「アップサイクルできるなら、ぜひお願いしたい」と期待の声。「日本全国、いや世界中で貝殻の処理に貢献できる」と確信する。第1、2期のCo-Design Challengeに、ともに採用された事業者は甲子化学工業だけだ。審査員から「事業の確実性と地域活性の両面で魅力的」との評価を受けている。


アップサイクルのすばらしさを知ってもらうため、体験企画を東京と大阪の2か所で計画中だ。東京では、ホタベンチの制作工程の見学会を清水建設のイノベーション施設「温故創新の森 NOVARE(ノヴァーレ)」(東京都江東区)で開く。高さ8メートル超の大型3Dプリンターで造形する様子を学べる。大阪では、モノづくり体験会を甲子化学工業の工場(東大阪市)で開く。親子でホタテの貝殻を砕いてパウダーにしたり、それを使ってプラスチック消しゴムを作ったりする予定だ。「ぼくら町工場が中心になって、なにか楽しいことをやっている、と未来の世代に知ってほしい」


万博への参加は、町工場にとって大きなチャンス。「未来のデザインを『どこかのだれか』ではなく『自分たち』がやる」。その思いが今、南原のモノづくりの情熱を支えている。


高さ8メートル超の大型3Dプリンター

体験企画で予定するホタベンチの制作工程(3Dプリンターの説明の様子)




「ホタテの貝殻をアップサイクル」ベンチ作りで世界の廃棄物課題の解決をめざしてVol.3

5人掛けの「ホタベンチ」


万博出展に向け「ホタベンチ」作りは最終段階を迎えていた。試作を重ね、5人掛けロングベンチとなるデザインに昇華させた。「4、5種類の候補を考え、その中から採用しました。来場する家族やグループが一緒に憩うことができる点が決め手です」と南原。最も高いところで約1mある背もたれはやわらかな曲線で、どこか貝殻を思わせる。ロングベンチは5つの椅子に分割可能だ。


大型3Dプリンターで造形する際の特徴であるしま模様「積層痕」を表面にあえて残し、最新技術を肌で感じてもらえるようにする計画だ。座面や背もたれ部分は表面を研磨することで手触りの良さも両立させた。小川は「色目はオフホワイトにする予定ですが、顔料の種類や濃淡で30色ほどのバリエーションがあり、5脚を別々の色にしてカラフルにもできます」と話す。


最終形にたどり着くまでの道のりは平坦ではなかった。砕いた貝殻の配合比率などで試行錯誤した。万博会場へ提供するベンチでは、北海道猿払村などオホーツク海沿岸のものだけでなく、新たに青森県の陸奥湾で育つホタテの貝殻を混ぜることにしている。机上の計算でうまく固まるはずでも実際は違う。セメントや水と混ぜて積み上げていくと重みで崩れてしまう。「ホタテの種類や育成方法の違いから特性が微妙に違うんです。配合に苦労しました」と小川。どんな貝殻でも対応できるようにするのは、産地の人たちの期待に応えるためにも越えねばならないハードルだ。世界中の貝殻をアップサイクルしてゆくための生みの苦しみといえる。


南原は「貝殻の活用は数十年前から試みられてきたものの、コスト面ではね返されてきた。3Dプリンター技術との組み合わせで、ついに突破できた」と振り返る。小川も「コンクリートに用いられる良質の砂は資源に限りがあり、貝殻はその代わりになりうる」と期待を寄せる。南原らは今、ホタベンチを手始めに、地形や景観にあわせてカスタマイズしたベンチを各地の野外公園に設置する構想を抱いている。まずは万博会場を訪れる人たちに見て、触れて、感じてもらい、ひとりでも多くの人に「面白いことが始まっているな』と思ってほしい。 “やっかい者”扱いされてきた貝殻が、私たちの身近な造形物のあれこれに生かされる時代がそこまで来ている。


ホタベンチの試作品

大型3Dプリンターによる造形の特徴である「積層痕」




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Co-Design Challengeとは?

Co-Design Challengeプログラムは、大阪・関西万博を契機に、様々な「これからの日本のくらし(まち)」 を改めて考え、多彩なプレイヤーとの共創により新たなモノを万博で実現するプロジェクトです。

万博という機会を活用し、物品やサービスを新たに開発することを通じて、現在の社会課題の解決や万博が目指す未来社会の実現を目指します。

Co-Design Challengeプログラムは、公益社団法人2025年日本国際博覧会協会が設置したデザイン視点から大阪・関西万博で実装すべき未来社会の姿を検討する委員会「Expo Outcome Design Committee(以下、「EODC」)」監修のもと生まれたプログラムです。


※EODCでの検討の結果はEODCレポートをご覧ください


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