公益社団法人2025年日本国際博覧会協会
「使い捨てをなくす これからのごみ箱」誰もが主役のリサイクルプログラム
2025年03月13日
テラサイクルジャパン合同会社は、2025年大阪・関西万博の「Co-Design Challengeプログラム」を通じて、会期前に日本各地域に展開する小売店の店舗に回収拠点を設け、より多くの地域の方々を巻き込む市民一体となったリサイクル活動に取り組んだ。リサイクル活動を通して集められたプラスチック容器を活用して製作されたごみ箱(資源回収箱)を万博会場に設置し、資源循環の一連のアクションを示す。万博終了後もごみ(資源)の分別やリサイクルに対する意識向上や、また持続可能な資源循環について考えるきっかけとすることを目的として取り組んでいる。そのプロジェクトについて、4回のシリーズ企画で迫る。
※シリーズ記事は、「Co-Design Challengeプログラム」のホームページに公開しています。各記事は、取材時点の情報のため、プロジェクトの進捗や開発状況によって当時から変更となった点などが含まれます。
「使い捨てをなくす これからのごみ箱」誰もが主役のリサイクルプログラム Vol.1
テラサイクルジャパン代表 エリック・カワバタ氏
使い捨ての文化を見直し、循環型経済にシフトした生活様式を定着させようと、産官学の垣根を越えたプロジェクトに挑み続ける「テラサイクルジャパン」が、大阪・関西万博で「これからのごみ箱(資源回収箱)」をデザインする。開幕前から消費者を巻き込み、世界に発信するプラスチックごみの資源循環モデルとは。ごみそのものの概念を覆す取り組みに迫る。
「大阪・関西万博で生まれ変わる!」「空容器を集めて再生に参加しよう!」。呼びかけのメッセージが書かれた回収箱が、2023年10月から流通大手「イオン」グループのスーパーに設けられ、全国650店舗に広がる予定。洗剤や柔軟剤、ヘアケア製品など使用済みのプラスチック容器を買い物客らから集め、万博会場に設置する資源回収箱の原料にする。リサイクル材からリサイクルのためのツールを作り出す取り組みだ。テラサイクルジャパンとイオン、日用品メーカー「P&Gジャパン」がタッグを組んで企画した。
「普段は捨てている使用済みプラスチック空き容器を店舗に持ち込むことで、誰もが万博に参加できる。みんなで力をあわせれば、ごみを資源に変え、循環型社会の実現につなげられることを、万博を通じて日本から世界に示したい」。テラサイクルジャパン代表、エリック・カワバタの思いは熱い。
「捨てるという概念を捨てよう」。これが、テラサイクルのミッションだ。再生困難な廃棄物のリサイクル活動などで世界の廃棄物問題に向き合ってきた。アメリカを本社とし、日本のほかカナダやイギリス、中国、韓国などに拠点を構える。
カリフォルニア州出身のカワバタは、ワシントン大学大学院で法学修士課程を修了し、海外の大手投資銀行の役員などを経て、環境専門のコンサルタントとして活躍していた。転機は13年、テラサイクルの創業者トム・ザッキーとの出会いだった。「素晴らしい話だけど、日本には必要ないと思いますよ」。日本での展開について相談を受け、カワバタは率直に答えた。環境省のデータやニュースを見る限り、日本はごみの分別回収が進み、リサイクル率が高く、ポイ捨ても少ない。ごみ問題はないと思っていたからだ。
だが、調べてみると実態は違った。回収したプラスチックの大半は燃やす際の熱を発電などに利用する「サーマルリサイクル(熱回収)」されていたのだ。これは脱炭素化の流れとは逆行する。そこで、ふと疑問がわいた。どれほどの国民が回収後の廃棄物の行方を知っているのだろうか。島国ゆえに限られた資源を大切にし、もったいない精神を育んできた国民性だけに、問題意識さえ芽生えれば、廃棄物を原料や製品として再資源化する「マテリアルリサイクル」が、どの国よりも進むのではないか。
現状を知るうち、決意がみなぎった。翌14年1月、日本法人の代表に就いた。日本でも使い捨て文化をなくす挑戦の第一歩を踏み出した。
イオン店内での回収箱による回収の様子
打ち合わせの様子
「使い捨てをなくす これからのごみ箱」誰もが主役のリサイクルプログラム Vol.2
素材の違いや、再生の方法について議論を重ねる
まずは、プラスチックなどの資源を回収し、再生させるプラットフォームづくりに着手した。物流や加工など一連の請負業者を探すなか、マテリアルリサイクルを手掛ける業者が日本は少なく、ひときわ苦労した。商談にこぎつけると、信用を得るために何度も足を運んで対話を重ねた。並行し、行政や企業に出向き、理念やビジネスプランを説明してまわった。たばこ販売会社や化粧品メーカーなどと連携し、回収リサイクルプログラムを始めた。吸い殻のフィルターを灰皿やクリアファイルに、化粧品の空き容器をスパチュラ(へら)に再生させ、来店客に配布するなどの取り組みを実施し発信していった。
だが、消費者への広がりは緩やかだった。回収量が増えないとリサイクルのコストもかかる。「家でちゃんと分別しているから、責任は果たしている。日本の消費者の多くはこう思い、なかなかプログラム参加の必要性を感じてくれない。回収だけを呼び掛けてもだめだ」。カワバタは考えた。そこで、日用品メーカー「ライオン」とともに、学校の総合学習の授業の一環として使用済み歯ブラシを回収し、植木鉢に再生するプログラムに乗り出した。「捨てずにリサイクルすれば、地球をきれいにできると知って驚いた」などの声が児童・生徒から寄せられ、手ごたえを感じた。
潮目が変わったのは2018年、中国が資源ごみの輸入禁止に踏み切ってからだ。輸出量が上位だった日本は対応に追われ、テラサイクルの活動がメディアでも取り上げられるようになった。パートナー企業やブランドが増え、詰め替えパックやおくすりシート、紙おむつ、ペンなど様々な廃棄物を「ごみにしない」プログラムを矢継ぎ早に実現していった。
2021年には、同じく「P&Gジャパン」と「イオン」と協働で、イオングループ各社の店頭においてP&G製品の使用済みプラスチック製空き容器を回収し、フェイスシールドの素材としてリサイクルするなど、少しでも多くの方々に循環型社会の実現に自分も貢献できるということを感じていただくべく、様々な市民参加型の協働プロジェクトを実施してきた。こうした積み重ねが、Co-Design Challengeへとつながった。「どれだけの人が参加してくれるか未知数だが、日に日に反響は広がっており、きっと大きなうねりになると信じている」。カワバタは期待する。閉幕後は回収箱を地域に戻し、分別回収した使用済み容器などをまた、新たに再生利用するために活用していきたい。
今年で日本法人の事業開始から10年の節目を迎える。ごみとされてきたものに新たな可能性を見いだす活動は全国に広がり、行政との連携も飛躍的に進んだ。「経済効率の問題があるから、リサイクルやリユースの取り組みは一挙には進まない。でも、日本人はコミュニティーを重視し、みんなで頑張るという強みをもっている。いろいろなステークホルダーを巻き込めば、なんでもできるということを示したい。日本の挑戦は他の国々にとっても良いモデルになるはず」。カワバタは日本の底力を確信している。
テラサイクルジャパン代表 エリック・カワバタ氏
イオン店頭用ポスター
「使い捨てをなくす これからのごみ箱」誰もが主役のリサイクルプログラム Vol.3
ごみ箱(資源回収箱)作りに使用する板材
イオングループ店舗で回収した使用済み日用品のプラスチック製本体ボトルおよびつめかえパウチを回収リサイクルして作る「ごみ箱(資源回収箱)」は、万博会場内4か所に設置される予定だ。カワバタは「当初、原材料となるプラスチック製容器の回収が進まず、心配しましたが、みなさんのSNSによる発信などが功を奏して、回収量がどんどん伸びてきました」とほっとした表情だ。
一口にプラスチック容器といっても樹脂の成分は様々で、分別回収しても、もう一度プラスチック製品に戻すのは、コストがかかる。「多くが『燃えるごみ』になるか、発電用の熱源となる『熱回収』に回されます。でも、例えば、使われなくなった木のテーブルを壊してバーベキューの燃料に使うとしたら、これはリサイクルといえますか」。カワバタの問題意識はそこにある。「私たちは、回収した容器を粉砕して、洗浄して、圧縮してCo-Design Challengeで万博会場へ提供する「ごみ箱(資源回収箱)」を作ります。現在使用する板材の本製作に入っています。板材には小さなフレークを残し、いろいろな素材が使われていることを可視化しています」。板材は水色やピンクのパステル色の紙吹雪が舞っているような出来栄えだ。「ちょっときれいでしょ?」とカワバタはほほ笑む。
板材を使って作られるごみ箱は、ペットボトルや缶、プラスチック、紙などのごみを分別するステーションになる予定だ。表面には、回収した樹脂製品がごみ箱となり、ステーションとして設置されるまでの「ストーリー」をイラストにして示す。分別回収が進んだ日本では、回収されたごみがリサイクルされているように多くの人が信じているが、実際には、大量のプラスチックは海外に輸出され、見えないところで熱源として消費されたり、海に流出してしまったりしている。「そうした現実をこのプロジェクトをきっかけとして、多くの人に知ってもらいたいのです」。
カワバタは「海外の友人が日本に来て、イチゴの一つ一つをラッピングしていたのに驚いていました。贈答品や、食品の過剰な包装が日本のごみを増やしているのでしょう」と語る。テクノロジーでリサイクルを進めることも必要だが、根本的には、その包装は必要なのか。これまで求めてきた「便利さ」「快適さ」が実は地球の未来のコストになっていることに気づかねばならない時代になった。樹脂を使うのが悪いことではない。どうしたら資源循環できるか考えることが必要なのだ。「人々はそれに気づき始めました。未来は決して暗くないと思いますよ」。カワバタがプロジェクトに込めるメッセージだ。
使用済み日用品のプラスチック製本体ボトルおよびつめかえパウチ回収箱
テラサイクルジャパン代表エリック・カワバタ氏
※テラサイクルジャパン合同会社は2024年12月1日に代表が交代されました。
記事内では取材時の情報を表記しています。(エリック・カワバタ氏は同社の現理事 )
「使い捨てをなくす これからのごみ箱」誰もが主役のリサイクルプログラム Vol.4
「ごみ箱(資源回収箱)」の完成イメージ
テラサイクルジャパンは2024年12月、代表がエリック・カワバタから馬場恒行に交代した。馬場は日本生まれだが、小学校卒業後、親元を離れてニュージーランドに単身移り住み、ラグビー選手として活躍。大学卒業後に帰国して、現在でもラグビーは現役という経歴の持ち主だ。帰国して思ったのは「日本はきれいな国だ」ということ。
「小学校などでは、自分たちの教室は子供たちが掃除するでしょう。そういう習慣はニュージーランドにはなかった。他の多くの国でも、あまり例がないようですね」。自分たちの居場所は自分たちできれいにするという意識がそうした経験で培われていると、馬場は推測する。だから、街中でごみが散らかっているというようなことはまれで、どこも清潔に保たれている。「でも、集められたごみがどのように処理されているかまでは、知らない人が多いのではないでしょうか」と、馬場は問題提起する。「実は分別回収されたごみも多くが焼却されていると知れば、みなさん驚かれるでしょうね」
回収したプラスチック製容器を原材料にした板材から「ごみ箱(資源回収箱)」を製作し万博会場へ提供する。このプロジェクトは、テラサイクルが、イオン及びP&Gジャパンと協働で取り組んでおり、万博開催の1年半も前から一般の消費者が回収の協力者として参加している。ごみ(資源)の分別やリサイクルに対する意識向上、持続可能な資源循環について考えるきっかけを創出するプロジェクトは、カワバタからパスを受け取った馬場により進められている。
「燃やすごみ」「燃やさないごみ」「紙ごみ」「プラスチック」「かん・びん」「ペットボトル」「ペットボトルキャップ」の七つのカテゴリーごとにボックスを作り、一つのごみ箱となる。またボックスをジグザグに組み、七つのカテゴリー分別に加え、プラスチックのリサイクル過程などプロジェクトのストーリーをイラストで表現し、その視認性やデザイン性を高めている。ごみ箱に掲出された2次元コードを読み取ると、イラストで表現されているリサイクル過程の動画を見ることができ、視聴後には大阪・関西万博のキャラクター・ミャクミャクのフォトフレームが出現し、ミャクミャクと一緒に写真撮影ができる仕掛けも用意している。
テラサイクルジャパンが提供する四つのごみ箱は、万博会場のシンボルである大屋根(リング)の下に設置される予定だ。「国内外から多くの人や企業関係者が来る場で、この消費者や企業がみんなで一緒に取り組んで廃棄物を循環させるサステナビリティープロジェクトを知ってもらいたい」と馬場は力を込めて前を見据える。
プロジェクトのストーリー(上)と七つの分別(下)を異なる面で表現している
テラサイクルジャパン代表 馬場 恒行氏
Co-Design Challengeとは?
Co-Design Challengeプログラムは、大阪・関西万博を契機に、様々な「これからの日本のくらし(まち)」 を改めて考え、多彩なプレイヤーとの共創により新たなモノを万博で実現するプロジェクトです。
万博という機会を活用し、物品やサービスを新たに開発することを通じて、現在の社会課題の解決や万博が目指す未来社会の実現を目指します。
Co-Design Challengeプログラムは、公益社団法人2025年日本国際博覧会協会が設置したデザイン視点から大阪・関西万博で実装すべき未来社会の姿を検討する委員会「Expo Outcome Design Committee(以下、「EODC」)」監修のもと生まれたプログラムです。
※EODCでの検討の結果はEODCレポートをご覧ください
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