公益社団法人2025年日本国際博覧会協会
「災害廃材を活用したサインスタンド」伝統の砂型鋳造で記憶をカタチ作る
2025年03月13日
株式会社金森合金は、2025年大阪・関西万博の「Co-Design Challengeプログラム」で、2024年1月1日に発生した能登半島地震の災害廃材、地域で産業廃棄物となる金属廃材を回収し、高温で溶解・精錬、砂型鋳造技術をいかしてサインスタンドを製作、会場へ提供する。廃材を資源化する物質としての変化だけではなく、記憶が紡がれ、人々の記憶を呼び起こす変化の象徴となるようなサインスタンドとすることをめざす。また鋳物工場では職人と共に、モダンなプレートや菓子切りなどの製作や、好きな商品を選んで名入れ刻印を行うオープンファクトリーを行う。また、ホテルのダイニングレストランで実際に菓子切りなどを試してもらうことも予定しており、「食と工芸」を体感する石川・金沢ならではの体験企画となっている。そのプロジェクトについて、3回のシリーズ企画で迫る。
※シリーズ記事は、「Co-Design Challengeプログラム」のホームページに公開しています。各記事は、取材時点の情報のため、プロジェクトの進捗や開発状況によって当時から変更となった点などが含まれます。
「災害廃材を活用したサインスタンド」伝統の砂型鋳造で記憶をカタチ作る Vol.1
伝統的砂型鋳造の様子(アルミ合金を流し込む工程・注湯<ちゅうとう>)
161の国と地域が参加する予定の大阪・関西万博で、多くの人が目にするサインスタンド。案内や誘導、告知などが目的のサインスタンドは、それ自体が目立つものではない。しかし、何を素材に用いて表現するかで、その意味は大きく変わる。金沢市に本社を置く金森合金は、自社が培ってきた循環型ものづくりで、災害廃材を活用し製作に挑む。
金森合金は、1714年に創業。加賀藩の2代目藩主・前田利長が産業振興として「高岡鋳物」を興す際、全国から招集した御鋳物師七人衆の一人に、大阪にいた金森弥右衛門がいた。その後数代を経て、鋳物商「釜八」を興したのが創業年にあたる。前田利長に召された時代から数えると、慶長から令和まで400年余、万博が開催される大阪に起源を持つ同社は、伝統的な砂型鋳造技術を継承してきた。
砂型鋳造は、砂で作りたい形の上下の型を取り、重ね合わせて出来た空洞に溶けた金属を流し込むことで作りたい形を作る。金森合金では、加賀藩に仕えていた時代は武具や梵鐘(ぼんしょう)を作り、藩が解体されると顧客の要望に応じ機械部品を、2006年からは自社の精錬技術で純度99.99%というロケットの部品素材も供給するほど、精錬と鋳造の技術力に定評がある。
24代目として事業継承中の取締役・高下(こうげ)裕子は、「砂型鋳造は、はるか昔から一切変わっていません。地域にある金属廃材を自社の中で精錬して、ものに変えてしまう、循環型ものづくりです。地域で出た廃材を地域で利活用する<マイクロサイクル>は、鋳造の世界では長く受け継がれてきた当たり前のことです」。サステナブルが世界で叫ばれるずっと昔から、確かな鋳造技術で持続可能な社会を支えてきた。
大阪・関西万博のCo-Design Challengeの募集に高下は、「サインには、方向や情報案内に加えて、“刻印”という意味もあります。金属は循環して再生し、色々なものに変容していくけれど、前のカタチの記憶を持っていると私は思っています。地域の廃材を利活用する、鋳造のマイクロサイクルを伝えたいですね」と、サインスタンドに込めた思いを語る。
そうした中、2024年1月1日、能登半島地震が発生した。
金森合金でもアルミ合金の溶解炉の水漏れや、砂型製作の造形機が故障し型込めが出来なくなるなど大きな被害が出た。
伝統的砂型鋳造の様子(職人が砂型を作る手込め<てごめ>工程)
「サインスタンド」のデザインなどを打ち合わせする様子
「災害廃材を活用したサインスタンド」伝統の砂型鋳造で記憶をカタチ作る Vol.2
金森合金敷地内に集められた能登半島地震・災害廃材の非鉄金属素材
(アルミサッシなど)
能登半島地震の災害廃材は、推定で240万トンと言われる。石川県は災害廃材の金属(約2万トン)やコンクリートなど再生利用可能な約120万トンを復興資材に活用すると発表している。
Co-Design Challengeでの地域廃材のサインスタンドへの利活用は、災害廃材の利活用へと変わった。高下はすぐに動き出す。災害廃材の回収ルートを調べたが、正規の回収先がつかめない。廃材回収にたどり着くまでに約3か月を要したが、アルミサッシなどの非鉄金属素材200キロを回収。窓枠のアルミサッシに残るネジを、一つ一つ手作業で外していった。高下は、「能登の方たちが前向きになれるように、それぞれの生活の中にあった金属を記憶とともに素材として生かし、次の未来につながるようなサインスタンドを作りたい」と力を込めて話すとともに、「災害のたびに回収プロセスはアップデートされているが、回収された災害廃材の集積地情報やどこに問い合わせればいいかなどがうまく伝わっていないと感じた」。今回の取り組みを通じ、災害廃材の早期活用という課題解決も考えたいと語る。
高下は、2人姉妹の長女として金森家に生まれた。かつては火を扱う鋳造は女人禁制と言われ、祖父や父から家業を継ぐように言われたことはない。しかし「家業はどうなるのか」ということは、いつも頭の片隅にあった。東京の大学を卒業、広告代理店で7年勤めたのち、夫の都合で海外に移住。帰国のタイミングで「今しかない」と、鋳造の世界に飛び込むことを決めた。
「1年間に1000種類ぐらいの製品を作る多品種少量生産で、中には30年に1回注文が入るような製品もある。まずはアナログな工場の仕事を見える化することから始めました。そして、会社の強みを洗い出す中で、BtoC向けのライフスタイルブランド『KAMAHACHI』を立ち上げました。国内企業の99.7%を占めると言われる中小企業の一社ですが、培ってきた技術、伝統を残していくことも使命で、そのためにはBtoB領域以外で伝えていくことも重要だと思っています」。無骨で語らぬ金属に代わって、高下は言葉を添えていく。
万博期間中には、本社工場で循環型のものづくりを伝えるための鋳造体験企画も検討している。「お客様が職人と一緒に砂型を製作し、その場で精錬したアルミ合金を鋳込んで菓子切りなどを作る体験企画や、出来上がった商品を使って料理を楽しむ企画などを考えています。企画を通じて、金属の生態系を一緒に考えてほしいですね」。高下からは、次々と鋳造への思いがあふれ出る。
和菓子を食べる際に切って口に運ぶ茶道具・菓子切り(アルミ鋳物/デザイン:雉)
金森合金取締役 高下 裕子さん
「災害廃材を活用したサインスタンド」伝統の砂型鋳造で記憶をカタチ作る Vol.3
「万博会場での案内役」と「記憶・刻印」の二つの意味が込められた
「サインスタンド」
能登半島地震から1年が過ぎた2025年1月初旬。高下は土台となる石材を求め、石川県志賀町を訪れていた。最大震度7を観測し、記録的豪雨にも見舞われた町内は、がれきが積み重なるなど依然として被害の爪痕が生々しく残る。「能登半島地震から一年が過ぎても次々と課題の日々。能登の未来への一歩へ協力させていただきます」。この地で創業100年を超える歴史をもつ「中島石材店」がデザインや重量設計にあいそうな石材を、「土田製材所」が型となる木材を被災した工房から一緒に探し出し、加工まで引き受けてくれた。自身も被災しながら修繕に奔走してきた日々を振り返り、ふるさとの復興の歩みを少しでも後押ししたいと願う姿に、高下はあらためて心に誓っていた。「能登の街の記憶を、再生に踏ん張る人たちの思いとともに、万博に集う世界中の人たちに伝えたい」
アルミなどの金属廃材は、金沢柿田商店の協力を得て輪島の朝市通りなどからの回収分に加え、能登の櫻田酒造店主が倒壊した酒蔵から直接届けてくれたものもあり、あわせて360kgに達した。石川県工業試験場、石川県デザインセンターと共に9ヶ月間の試行錯誤を経て、2月中旬、ようやく完成した高さ1.4mのサインスタンド。表面には大小さまざまな穴や、波打つような文様が刻まれ、約800度で溶解、精錬して砂型に流し込んだ瞬間の動き、躍動感がそのまま生かされていた。震災の記憶の継承とともに、金属の循環を描き出す。それはまるで、高下がCo-Design Challengeで目指したテーマが結実した、ひとつの工芸作品のように存在感を放っていた。
「地球上で限られた鉱物を循環し、シンプルなカタチで皆さまにお届けする」。これは、金森合金が掲げている企業理念だ。新聞印刷用のアルミ板を自動車部品に鋳造するといった産業分野にとどまらず、大手ホテルで廃棄していたアルミ缶をテーブルウェアに生まれ変わらせるなど、身近なアイテムにも製品のすそ野を広げてきた。万博に向けても、パビリオンに出展する美容室向け設備メーカーと連携し、使い捨てられるカラー剤のアルミチューブを原料にして、来場者に提供するサステナブル商品を考案中だ。「捨てることが当たり前と思われていたものを再び製造ラインのサイクルにのせていく。課題解消に向け、異業種との共創につながるコラボレーションがどんどん進むところが万博らしくて、今からワクワクしています」。高下は声を弾ませる。
高下は、金属だけでなく、工場内で生み出されるあらゆる素材、エネルギーを循環させられるサーキュラーファクトリーへの移行を思い描く。現在は、成型用の砂を再利用して水仙を育てる試みに挑む。いずれは、溶解の際に生み出される熱の活用も視野に入れている。「例えば、銭湯のエネルギー源にして地域の方々に還元していけるようになったら最高ですね」。高下は、次のフェーズに向けて走り出している。
砂型にアルミ合金を流し込むサインスタンドの製作工程
金属を鋳込んだ際の動きをあえてそのまま残し、サインをとめる
Co-Design Challengeとは?
Co-Design Challengeプログラムは、大阪・関西万博を契機に、様々な「これからの日本のくらし(まち)」 を改めて考え、多彩なプレイヤーとの共創により新たなモノを万博で実現するプロジェクトです。
万博という機会を活用し、物品やサービスを新たに開発することを通じて、現在の社会課題の解決や万博が目指す未来社会の実現を目指します。
Co-Design Challengeプログラムは、公益社団法人2025年日本国際博覧会協会が設置したデザイン視点から大阪・関西万博で実装すべき未来社会の姿を検討する委員会「Expo Outcome Design Committee(以下、「EODC」)」監修のもと生まれたプログラムです。
※EODCでの検討の結果はEODCレポートをご覧ください
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