公益社団法人2025年日本国際博覧会協会

「京都の文化を誇るスツール」循環・愛着・持続を世界へ発信

2025年03月13日

一般社団法人 Design Week Kyoto 実行委員会は、2025年大阪・関西万博の「Co-Design Challengeプログラム」で、スツールを提供する。木部には2024年1月1日に発生した能登半島地震の災害廃材を使用し、座面には京都府北部・丹後地域で生産される丹後ちりめんの生産工程から出る残布を用いたクッションを載せる。クッションには、使い手の個性などの背景にちなんだ絵柄の刺繍を施す。またスツールやクッションを製作する工場の現場を訪問し、プロセスや作り手の思いを感じてもらうオープンファクトリーとともに、製作現場の技術や作り手を生み出している地域の背景を理解できる社寺や自然などを訪れる体験企画を予定している。そのプロジェクトについて、3回のシリーズ企画で迫る。


※シリーズ記事は、「Co-Design Challengeプログラム」のホームページに公開しています。各記事は、取材時点の情報のため、プロジェクトの進捗や開発状況によって当時から変更となった点などが含まれます。




「京都の文化を誇るスツール」循環・愛着・持続を世界へ発信 Vol.1

スツールクッション生地への刺繍デザイン案と刺繍試作品


「資源の循環を」「愛着を持って使い続けてほしい」という願いが込められた椅子「作り手と使い手が共創し、思い出が持続するスツール」が、大阪・関西万博にお目見えする。京都府内の刺繍(ししゅう)業と家具メーカーの2社が、「丹後ちりめん」の残布への刺繍と能登半島地震の災害廃材活用で、大切な思い出を残していく。その挑戦に迫る。


京都府内各地の地域に根付いた、多様なものづくりの担い手などで構成された、京都市の一般社団法人Design Week Kyoto実行委員会。代表理事・北林功が2023年秋、Co-Design Challengeへの参加をメンバーに促すと、舞鶴市の刺繍業「三葉商事」の山下正人が手をあげた。さらに、京丹後市の家具メーカー「溝川」の社長・髙杉鉄男も「異業種との交流はプラスになる」と思い賛同した。


Co-Design Challengeへ応募し、スツールが選定され、北林、山下、髙杉やデザイナーらプロジェクトメンバーは、会議を重ね構想を練る。山下は、一年ほど前に織物の産地である京都府与謝野町の織元で倉庫に眠る、難点がある生地「B反」を目にして、「刺繍で生地を蘇らせたい。和装需要の減少などで衰退する丹後ちりめん業界の一助とならないか」と考えていた。そこで、スツールのクッション生地に、丹後ちりめんの残布を提案し、採用された。クッションの中芯にはスツールの座面や脚の木工部分を担当する溝川の家具づくりで生まれた、かんなくずを入れる予定となった。


クッション生地には、誰かの大切な記憶を刺繍で表現しようとなり、作り手である山下の思い出を図案とすることになった。「舞鶴市の運河『吉原入江』やキンモクセイが印象的な『実家の周りの風景』などが、すぐに浮かんだ。ただその思い出の風景を、丹後ちりめん特有の生地表面のシボと呼ばれる細かな凹凸を大切にしながら、写実的に刺繍で表現するのは難しく、刺繍の良さを伝えられる図案を議論、検討している」と山下は語る。図案は、使い手の思いも考え、更新していく予定だ。


プロジェクトの発起人である山下は、1991年に舞鶴市で誕生。京都市内の大学で建築を学んだ後、ハウスメーカーでの勤務を経て、2020年から家業に就く。山下は「高齢化や担い手不足に加えて、サプライチェーンの中で刺繍加工業の低加工賃は業界存続の課題」と捉えつつも、「だからこそ『刺繍文化をアップデート』を合言葉にし、アパレルだけでなくインテリアなどあらゆるシーンで、今風に価値を向上させたい。Co-Design Challengeは国内外の人々が訪れる万博会場で披露できるので、またとない機会だ」と意気込む。故郷への愛着が、ものづくりへの誇りとともにスツールに込められていく。


舞鶴市「三葉商事」の体験企画で予定するオリジナル刺繍入りグッズづくりの様子

(オリジナルデザインを刺繍する様子)

三葉商事 山下 正人さん




「京都の文化を誇るスツール」循環・愛着・持続を世界へ発信 Vol.2

スツールの脚の原材料となる能登半島地震の廃材


京丹後市の溝川は、家具・建具店として1960年に創業。その技術力を生かして家具領域に進出。高度経済成長期には、工業製品化が進み量産品販売のみを行う家具小売店も増えたが、使い手に寄り添ったものづくりにこだわり続け、現在でも近畿圏内の商業施設や病院などから受注し、オーダー家具を製作する。


スツール作りでは木工部分の座面と脚を担当する。当初は、京丹後地域の古民家廃材をスツールの木工部分に使用しようと考えていた。若者が地域から離れて高齢化が進み、先祖から引き継がれてきた古民家が空き家となり朽ちていく。そんな光景を見るたびに「万物に生命と役割がある。一人で生きているのではなく、何代も前から脈々と引き継がれてきたものがある。古民家にもそこで暮らしてきた人々の思いが詰まっている。壊して廃棄するのではなく、古材をアップサイクルすることで、その思いも受け継いでいって欲しい」という髙杉の思いがあった。そんな中、2024年元日に能登半島地震が発生する。髙杉はプロジェクトメンバーとも協議し、スツールの木工部分に災害廃材を使用することにした。Co-Design Challengeに参加し災害廃材を活用したサインスタンドを製作する金森合金(本社:金沢市)と連絡を取り、家の柱や梁(はり)だった災害廃材を手にした。髙杉は「この柱、梁は、能登で正月に集う家族を見ていたかもしれない。『人の営みを忘れないで』という思いで、廃材にはさせない、まだ命は宿っている。」と話す。


木工部分の試作品づくりはこれからだ。座面デザインは円形で、山下が刺繍を施すクッションを据え付けではなく交換できるようにし、接合には釘を使わない堅木を用いた工法「楔(くさび)」で作る予定だ。髙杉は「木は生きている。だから能登の災害廃材を京丹後で加工し、万博会場の大阪で使用すると、その環境の違いで変化する」と言う。そのため、通常は木材の表面にウレタン加工を行うが、今回は加工しないで木がどう動くのかも感じてもらいたいと考えている。


また三葉商事と溝川の両社では、ものづくり現場の理解を深めようと、体験企画も計画している。三葉商事では、工場見学を実施し、参加者が選んだタオルなどのグッズに、好みの文字データを刺繍したオリジナル品を作る。溝川でも、工場見学の後、建具の技法「組子」を取り入れたコースターを作り、用途が変わっても技術が生きる事を体感してもらう。さらに、刺繍の図案になった舞鶴市の運河「吉原入江」や、京丹後市指定文化財の霧ノ宮神社の巨樹「八岐(やつまた)スギ」などを周遊してもらうことも検討している。


山下は「万博を機に生地の各産地に刺繍を役立て、さらに刺繍でテキスタイルを作り、室内装飾を手掛けて世界に届けたい」と言い、髙杉は「京丹後では廃村もあるが、協力して生きている人がいる。万博後も、そんな営みを心にとどめてほしい」と願う。


京丹後市「溝川」の体験企画で予定する組木コースター創作の様子

京丹後市「溝川」の体験企画で見学予定の木材加工の様子




「京都の文化を誇るスツール」循環・愛着・持続を世界へ発信 Vol.3

(左)会場へ納品するサイズのスツール

(右)刺繍をほどこしたクッションを据えたスツール

※共にプロトタイプのため、最終版とは異なる予定です


プロジェクトをプロデュースする一般社団法人Design Week Kyoto実行委員会の北林は、「Co-Design Challengeを通じて、これまで組むことがなかった企業や人がつながった」と力を込める。刺繍(ししゅう)の三葉商事、家具・建具の溝川の職人技を生かすために、京都市に拠点を置くデザイン会社o-lab inc.の綾利洋、テキスタイルデザイナーTAKAKO DESIGN WORKSの田代貴子とともに、1年以上企画を練り上げてきた「作り手と使い手が共創し、思い出が持続するスツール」は、万博会場に6脚を提供する。


試作品は、高さと直径が異なる2サイズを製作した。親子連れが多いことが想定される万博会場で子どもでも腰を掛けやすいこと、座り心地の良さを重視し、低くて座面が大きい方を採用した。また、刺繍の配置などのバランスや、座面からクッション部分が取り外せるようにすることにもこだわった。伝統的な「割り楔枘(くさびほぞ)接ぎ」により組み上げられた脚部には、様々な記憶が染み込んだ古材を使用しており、取り壊される家や家具などの材料を受け継ぐことができることを提案している。北林は「スツールは座っている時間よりも、実はインテリアとして眺めている時間の方が長い」と言う。万博後に興味を持った人々がこのスツールを作りたいという際に、自身の大切な記憶を刺繍で表現したクッションを季節や気分によって交換することで、座るだけでなく眺めて思い出に浸ることができるような心の癒やしも追求した。北林は「思い出が詰まった古材や使われない生地に、記憶を意匠化し、職人の技術と思いを加えて美しくすると、大切に使う心が養えるはず」と語る。


体験企画では、ものづくり現場を訪問した人と職人が交流することを大切に考えている。北林は「工場見学」ではなく「工場訪問」と呼び、職人の技術を見るだけではなく、深い交流が可能な8人前後のグループで職人の背景にある地域の様々な場所も訪れる1泊2日のツアーを企画している。「舞鶴・丹後の歴史を調べると、最先端のものづくりを行い、自然風土と共に生きてきた街だとあらためてわかった。そういった背景の風土に触れながら、最新の機材とクラフトマンシップにあふれる三葉商事や、木に対する愛情が深い溝川への訪問やワークショップを意義付けたい」と北林は言う。


「舞鶴コース」では、三葉商事や、デザインやファッション系のものづくり企業、飛鳥時代に建てられ、国重要文化財の金剛力士像がある多禰寺(たねじ)、紀元前に創建され、産業の始祖を祭り霊水が湧く彌伽冝(みかげ)神社などを訪ね、縫製工場が手掛ける宿「SEW STAY」に宿泊する予定だ。「丹後コース」は、水・木・山をテーマとし、溝川や丹後ちりめんの生産地、日本海を一望できる大成古墳群や滝などの訪問を計画中だ。北林は「舞鶴・丹後の職人が、普段目にする製品を支えていること、そして素晴らしい技術と想いを持ってものづくりに取り組んでいることに気づいてほしい。そうした気づきで、少しでも世の中の価値観を変えていきたい」と真っすぐに前を見つめる。


三葉商事・山下さんの思い出「吉原の入江」の刺繍

一般社団法人Design Week Kyoto実行委員会 代表理事 北林 功さん





×



Co-Design Challengeとは?

Co-Design Challengeプログラムは、大阪・関西万博を契機に、様々な「これからの日本のくらし(まち)」 を改めて考え、多彩なプレイヤーとの共創により新たなモノを万博で実現するプロジェクトです。

万博という機会を活用し、物品やサービスを新たに開発することを通じて、現在の社会課題の解決や万博が目指す未来社会の実現を目指します。

Co-Design Challengeプログラムは、公益社団法人2025年日本国際博覧会協会が設置したデザイン視点から大阪・関西万博で実装すべき未来社会の姿を検討する委員会「Expo Outcome Design Committee(以下、「EODC」)」監修のもと生まれたプログラムです。


※EODCでの検討の結果はEODCレポートをご覧ください


詳しくはこちら






行動者ストーリー詳細へ
PR TIMES STORYトップへ

記事一覧に戻る