公益社団法人2025年日本国際博覧会協会

リサイクル陶土で描く「これからの信楽」。陶芸の火は絶やさない

2025年03月13日

信楽陶器工業協同組合は、2025年大阪・関西万博の「Co-Design Challengeプログラム」で、陶製テーブルスツールを万博会場に提供する。信楽焼産地の地域連携により、窯業系廃棄物のリサイクル資源化と琵琶湖の生き物をモチーフにデジタル技術を活用し、多様な対話や文化の共創に繋がるアップサイクル製品を開発した。また日本遺産の日本六古窯のひとつ信楽焼の窯元の工場見学や陶芸体験を予定しており、未来世代へ継承するための信楽焼産地の魅力ある陶芸文化の発信・提供をめざす。そのプロジェクトについて、3回のシリーズ企画で迫る。


※シリーズ記事は、「Co-Design Challengeプログラム」のホームページに公開しています。各記事は、取材時点の情報のため、プロジェクトの進捗や開発状況によって当時から変更となった点などが含まれます。



リサイクル陶土で描く「これからの信楽」。陶芸の火は絶やさない Vol.1

成形されたスツールに模様をつける様子


日本遺産の日本六古窯のひとつ、信楽焼(滋賀県甲賀市)。時代が変わっても色あせない風合いは多くの人を魅了してきた。1970年の大阪万博、90年の国際花と緑の博覧会(花博)に参画してきた産地が今回、Co-Design Challengeで発信するのは「これからの『信楽』をデザインする~リサイクル資源とデジタル技術による陶芸文化の創造~」だ。先人たちの思いを受け止め未来へつなぐ。「土と炎の焼き物の里」が一丸となって新しい息吹を吹き込む。


滋賀県の南端に位置し、周囲を山々が取り囲む。細い路地には窯元が点在し、登り窯やレンガ造りの煙突がレトロな風景を醸し出す。のどかな山里からは想像しがたいが、遥か太古に思いをはせると、この地は琵琶湖の原型となる古代湖に覆われていた。現在から約400万年前に湖底に堆積した土砂などが古琵琶湖層と呼ばれる地層を形作り、焼き物に適した良質な粘土を産出。この「琵琶湖の恵み」の土を使い、鎌倉時代中期に信楽焼の歴史が始まったとされる。


信楽焼を支えるこの土の有効活用に加え、廃棄物のリサイクル活用という課題を抱えていた。万博へ参画した経験を持つ産地では、2025年の大阪・関西万博への参加の機運が盛り上がり、Co-Design Challengeへの取り組みを検討する中で信楽陶器工業協同組合が出した答えが「リサイクル資源を従来原料に配合した陶土の開発」だ。いわば「万博仕様のハイブリッド陶土」。この土で作った信楽焼のテーブルスツールを会場に持っていこう。制作は、大物陶器で実績と定評のある「丸滋製陶」に白羽の矢が立った。


「信楽の土と炎を絶やさない」を使命とする組合にとっても陶土開発は、廃棄される衛生陶器の磁器片や電子機械材料のアルミナ系粉末を信楽の土に練りこんでブレンドしていく。信楽の風合いを損ねないように、ブレンド比率を調整し、大型の混錬機と土練機で陶土を作り上げた。信楽の土に3割程度のリサイクル素材を配合した。資源の有効活用につながるだけでなく、大物陶器の制作には大事な要素となる収縮率抑制や強度向上という思わぬ副産物もあった。


「プレッシャーはあるが、信楽代表として大物が得意なうちの窯で勝負する」。産地の期待を背負った土が丸滋製陶の今井将之のところに持ち込まれた。「SHIGARAKI」を世界に発信する。普段は柔和な今井の表情が引き締まった。


丸滋製陶 代表取締役 今井 将之さん

信楽焼の窯元が多数点在する「窯元散策路」の風景



リサイクル陶土で描く「これからの信楽」。陶芸の火は絶やさない Vol.2

体験企画で予定するアクセサリー創作の様子


丸滋製陶は1877年に創業し、創業150年近い歴史を持つ老舗だ。今井は6代目になる。主力だった火鉢から4代目の父親が傘立てやガーデンテーブルなどに幅を広げて、今の礎を築いた。父親の背中を追いかけてきた今井にとって、父の代が携わった万博もまた特別な存在だ。


信楽と万博の関係は深い。1970年の大阪万博のシンボル、岡本太郎がデザインした「太陽の塔」の背面にある「黒い太陽」は、信楽焼のタイルで出来ている。90年の「花博」では、信楽焼の陶花で飾られた噴水「花の塔(セラミック・ファンタジー)」が注目を集めた。万博開催の度に信楽は地域が連携して大舞台で、その名を高めてきた。


今回の万博会場には、リサイクル素材を練りこんだ開発陶土で焼き上げるテーブル1台とスツール4台を提供する予定だ。焼き物への加飾には琵琶湖の生き物をモチーフにすることを検討している。信楽の新しい挑戦として、最新のデジタル技術も取り入れた。ビワマス、ホンモロコなど琵琶湖固有の魚のイラストを、レーザー加工機も活用し、樹脂製の模様型を作りスツールなどに加飾していく。樹脂のため曲面にも対応でき、作業の自由度も増す。


さらに釉薬(ゆうやく)の調合にも工夫を凝らす。信楽焼の特徴的な赤茶色の焼き色「火色」をベースに、琵琶湖をイメージさせる青系色や森林を表す緑系色も使った新色で琵琶湖の豊かな恵みへのオマージュを込める。


体験企画では、万博で信楽焼の良さに触れた来場者を信楽の地にいざない、アクセサリーなどの創作を楽しんでもらう。準備を進めるのは、陶人形や食器、花器を得意とする「明山陶業」だ。9代目の石野伸也は「提供するテーブルスツールに使う同じ土と、デジタル技術を活用した琵琶湖の魚の加飾型を使って自由な作品を作ってほしい。万博の体験を信楽焼の形にして思い出にしてほしい」と期待する。伝統にとらわれず、革新性を取り入れ、新たな価値を生んできた信楽ならではの空気感。それを、この地で感じ取ってもらう。万博は絶好の機会となる、と期待する。


リサイクル陶土は、コシがあり可塑性も高く、上々の仕上がりとなった。成形には自信を持つ今井は言う。「焼き物は窯に入れたらあとは炎に委ね、窯出しするまでどんな作品になるか分からない。それが難しさであり醍醐(だいご)味でもある。それも楽しみたい」


万博で問う「これからの信楽」。先人から引き継ぎ、守ってきた「土と炎」を、次世代に託し、陶芸文化を継承する。産地の思いが大きなカタチとなって未来図を描く。


琵琶湖の生き物などが模様として施されたスツールの素焼き

信楽焼の特徴的な赤茶色の焼き色「火色」



リサイクル陶土で描く「これからの信楽」。陶芸の火は絶やさない Vol.3

信楽焼のテーブルとスツール


素焼きされたテーブルスツールに釉薬(ゆうやく)がかけられ、1200度ほどで焼成されると全く違った景色を見せた。信楽焼の代名詞である赤茶色の焼き色「火色」の濃淡と、高温で焼くことによって光沢のある緑色に発色する釉薬「織部釉(おりべゆう)」の深い緑色が生む絶妙のコントラスト。試作品を見て丸滋製陶の今井も「いい感じで焼き上がった」と安堵の表情を浮かべた。


琵琶湖固有の魚などが模様として描かれたテーブルスツール。琵琶湖をどんな色合いで表現するか。今井は、新たに組合で配合された釉薬も使って、試し焼きを重ねて模索を続けてきた。釉薬の掛け具合を調整し、たどり着いたのが、ひと目で信楽と分かる火色の存在感をいかしつつ、穏やかにたゆたう琵琶湖を思わせる深みを持った緑色だ。テーブルトップにある琵琶湖のシルエット部分は白い釉薬を重ね掛けすることで、色合いに変化を出した。


今回万博用に開発された、陶器の破片などのリサイクル素材を練り込んだ陶土の使い勝手も上々だ。今井は「効率がよい土」だと言う。成形後の乾燥が早く、焼き上がってからの強度も増した感じがするという。資源の有効活用に加え製造エネルギーの削減にもつながるなどメリットも多く、「未来への手掛かりはできた」と今井は期待をかける。


信楽のランドマークである「登り窯」の元での陶芸体験も着々と準備が進む。テーブルスツールの模様にも使われている琵琶湖固有の魚をデジタル技術で成形した樹脂系のスタンプが、ここでも活躍する。手作りした皿やアクセサリーなどにビワコオオナマズ、ビワクンショウモなど9種類のスタンプを自由に使ってオリジナル作品を仕上げてもらう。さらに1か月後の焼き上がりを待つ楽しみもある。担当する明山陶業の石野は「万博がなければチャレンジしなかった。幅広い世代に信楽に来てもらい、ゆっくりした日常を体験してもらいたい」とほほ笑む。


信楽焼と言えばタヌキが有名だが、それにとどまらず、小物から大物まで多種多様な製品を生んできた。石野は「チャレンジし続けていくことが信楽の伝統だ」と言う。産地が一体となり課題に向き合い、社会に柔軟に対応しながら革新を重ねることで次の世代へと伝統をつなげてきた。


今井の父親の世代は、1970年の大阪万博の太陽の塔で信楽の存在感を示した。今回は、リサイクル資源とデジタル技術への挑戦で新たな創造を生み出そうとしている。山あいの静かな陶芸の里は、土と炎に向き合いながら、さらにその先の姿も追い求めていく。


琵琶湖とその固有種の生物がデザインされたテーブル天板

体験企画で作陶予定の信楽焼アクセサリーや食器




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Co-Design Challengeとは?

Co-Design Challengeプログラムは、大阪・関西万博を契機に、様々な「これからの日本のくらし(まち)」 を改めて考え、多彩なプレイヤーとの共創により新たなモノを万博で実現するプロジェクトです。

万博という機会を活用し、物品やサービスを新たに開発することを通じて、現在の社会課題の解決や万博が目指す未来社会の実現を目指します。

Co-Design Challengeプログラムは、公益社団法人2025年日本国際博覧会協会が設置したデザイン視点から大阪・関西万博で実装すべき未来社会の姿を検討する委員会「Expo Outcome Design Committee(以下、「EODC」)」監修のもと生まれたプログラムです。


※EODCでの検討の結果はEODCレポートをご覧ください


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