株式会社ITSUDATSU

スタートアップや地方中堅企業こそ「ISO30414」を武器にするべき理由

2025年04月08日

目次

  1. 人的資本情報開示の潮流とISO30414の登場
  2. ISO30414の概要と地方中堅・スタートアップへの適用のススメ
  3. ITSUDATSUの支援で“属人化の壁”を突破した、地方製造業の人的資本改革
  4. 人的資本KPIは、数字であり「文化装置」でもある

人的資本情報開示の潮流とISO30414の登場

近年、「人的資本経営」への注目が世界的に高まっています。企業価値を左右するものとして、人材を資本(ヒューマンキャピタル)と捉え、その情報を開示・活用する動きが強まっているのです。欧米では既に人材に関する情報開示が進み、日本でも2023年より上場企業に人的資本情報の開示が義務化されました​。この流れを受け、企業は自社の人的資本(従業員のスキルや多様性、エンゲージメントなど)を「見える化」し、戦略に活かすことが求められています。


こうした背景で登場したのが「ISO30414」です。ISO30414は2018年に国際標準化機構(ISO)によって策定された人的資本情報開示の国際規格で、企業が開示・管理すべき人材関連の指標を体系立てて定めています​。具体的には11の領域・58の指標がガイドラインとして示され、コンプライアンスからコスト、ダイバーシティ、リーダーシップ、組織風土、健康安全、生産性、採用・離職、スキル向上、後継者計画、労働力確保まで網羅されています​。ISO30414により企業の人的資本状況を共通の物差しで測れるようになり、投資家や従業員などステークホルダーが企業の人的資本を把握・比較しやすくなりました。


注目すべきは、このISO30414が単なる大企業向けの規格ではないことです。

日本国内でも大手のみならず、中堅・中小企業がISO30414の認証を取得し、人材戦略に活用し始めています​。実際、2024年10月時点で国内18社が認証を取得しており、その中には三井物産や日清食品HDといった大企業だけでなく、従業員数百名規模の企業も含まれます。このことは、ISO30414が企業規模を問わず有効な経営ツールであることを示しています。

ISO30414の概要と地方中堅・スタートアップ企業への適用のススメ

ISO30414は「人的資本の健康診断書」とも言えるものです。企業はこのフレームワークに沿って自社の人材に関するデータを集め、定量評価します。

例えば従業員の多様性(年齢・性別構成など)、エンゲージメント(社員満足度や定着率)、育成投資(研修費用や受講時間)、生産性(一人あたり利益)といった指標を計測し、レポート化することで、人材面でのヘルススコアが一目で分かるようになります。

国際規格であるため項目定義が統一されており、他社との比較可能性も担保されます​。

スタートアップや中堅企業にとっても、このような客観的データに基づく比較は、成長戦略を練る上で貴重な指針となるでしょう。


また、ISO30414の適用は義務ではなくガイドラインであり、自社の状況に応じて取り組む項目を選択できます​。全部で58指標ありますが、全てを網羅する必要はありません。


逆に言えば、自社にとって重要な人材KPI(重要業績評価指標)に絞って段階的に導入できる柔軟性と懐の深さがあります。リソースの限られた中小企業でも、まずは測定しやすい指標から着手し、徐々に範囲を広げることで、無理なく人的資本の「見える化」を実現できます。こうした段階的アプローチにより、地方の企業であろうが、スタートアップだろうがISO30414の恩恵を享受可能なのです。

ITSUDATSUの支援で“属人化の壁”を突破した、地方製造業(東証プライム市場:A社)の人的資本改革

私たちITSUDATSUは、「品質至上主義の組織戦略家集団」として、企業の逸脱的成長を支える人的資本経営の導入支援を行っています。弊社は、ISO30414の導入支援を行うにあたって、単なる「テンプレート的な支援」ではなく、クライアントの経営文脈にどれだけ深く接続できるかを常に第一に置いています。私たちは、“人材の価値を証明する”とはどういうことかを自問しながら、支援先ごとの独自性とリアルに根ざした戦略設計・KPI開発に挑んできました。


地方製造業(東証プライム市場)のA社様の事例をご紹介します。この企業は特定の要人材(キーパーソン)に業務知識やスキルが偏重し、“属人化”によるボトルネックが問題となっていました。ベテラン社員にノウハウが集中し、新人や若手への継承が進まずにナレッジの広がりを阻害していました。


当初、経営陣からは「人的資本をどう開示するか」が主な相談内容でしたが、私たちはヒアリングを重ねながら、「開示」が力点ではなく「どう語れるか/どう動かすか」に焦点を移していきました。


経営陣との対話を通じてわかったのは、表面的な課題(離職率や技能承継)ではなく、「属人化した現場」「暗黙知のサイロ化」「“教える文化”の欠如」といった開示だけでは掴めない組織の奥底に横たわる構造的課題の存在でした。


この洞察から、私たちはクライアントとともに「要人材波及効果指数(Kaname Ripple Effect Index)」という独自のKPIを開発しました。これは、あるキーパーソン(要人材)が、周囲にどれほど知識・行動・意識の影響を与えているかを測るものです。

単に“優秀な人がいる”ではなく、“その優秀さがどこまで広がっているか”を、人的資本の指標として定量的に捉えることに挑戦したのです。

弊社の場合は、要人材によって新しく生まれたサイドプロジェクト数や、要人材の影響力を潜在意識の数値の変化によって可視化していますが、A社はまずは「要人材一人あたりが育成・支援した同僚の人数」と定義されました。


しかし、導入初期は社内の抵抗も大きく、特に「いきなりユニークなKPIを設けて評価すること」「改革に似たアプローチによって離職率が上がってしまうのでは」といった声が現場や一部管理職層から上がりました。


私たちはこの不安を“拒否反応”ではなく“正直な信号”と受け止め、対話に時間をかけました。私たちが一方的に指標を導入するのではなく、「これはA社の組織課題を構造から変化を促すために必要なものであり、本来キーパーソンとして活躍するであろう人材が埋もれてしまっている機会損失の方が遥かに大きいのでは」というメッセージを経営陣・人事・現場の三層それぞれと対話し続けるという、地道な合意形成を重ねました。


初回測定では、要人材10名が選出(発掘)され、それぞれが直接ナレッジ共有している相手は平均わずか1.3人。属人化の深さに経営陣も大きな危機感を抱き、「このままでは会社が“止まる”」との強い意思で改革に本腰が入りました。

改善施策として、まず社内にナレッジシェア制度を導入しました。要人材が自分の専門知識を定期的に発信できる場として、月次ミーティングや社内勉強会を開催。各キーパーソンにテーマを割り当て、ノウハウをプレゼン・共有する文化を醸成しました。さらに、上記の活動を後押しするべく、並行してナレッジ管理ツールを導入し、要人材の頭の中にあった暗黙知を社内Wikiとして形式知化。

これらの施策をさらに現場に浸透させるため、経営層自らが旗振り役となり「ノウハウは会社の財産」というメッセージを周知して、要人材とその周囲両方の当事者意識を高め、知識のサイロ化打破を組織目標に掲げて全社展開しました。


その結果、現場の納得感と自発性が高まり、要人材波及効果指数は平均1.3→4.0人に改善。「教えるほど自身も評価される」という独自の「ラーニング風土」を築かれていきました。人材育成のKPIが、単なる評価指標ではなく、組織文化そのものを変える触媒にもなりました。


要人材自身にも変化があったことが大きな副産物で、知識共有の担い手となったことで彼らのエンゲージメントは向上し、対象期間中の要人材の離職者は0となりました(前年は2名が退職)。組織全体でも社員の学習意欲スコアが20%向上し、部門横断のコラボレーション案件が増加するなど、さらに副次的な効果も生まれています。

「知識共有」と「キーパーソンからの影響力の流れを抑える」ことの2点が組織の生産性と成長ポテンシャルを押し上げる​ことを、同社はこの一年で実証したと言えるかと思います。

人的資本KPIは、数字であり「文化装置」でもある

ITSUDATSUにとって、KPIは「組織を可視化する道具」であると同時に、「組織を再設計する文化装置」でもあります。A社様との取り組みでは、“何をどう測るか”の前に、“なぜ測るのか”を徹底的に掘り下げました。


KPIは単なる管理指標ではなく、「組織の未来のかたち」を映し出し、その方向性を調整する羅針盤のようなものです。私たちITSUDATSUは、今後も単なるISO 30414の開示対応やフレーム準拠にとどまらず、その企業らしさを活かした「資本のストーリー」をともに描き出す支援を続けていきます。


大企業では法令対応として半ば強制的に人的資本開示へ動いていますが、中堅以下の企業こそ自主的・戦略的にこの流れを味方につける好機と言えます。

特にスタートアップや中堅企業にとって、人材こそ最大の経営資源であり競争力の源泉です。限られたリソースで最大の成果を上げるには、自社の人的資本を把握し、強みを伸ばし弱みを補強する戦略が不可欠です。ISO30414はそのための羅針盤として機能します。


早い段階で人的資本マネジメントを高度化しておけば、後々の急成長や上場準備の局面でもスムーズに対応できるでしょう。

また、社外から「人的資本経営に熱心な企業」と評価されることで、資金・人材・ビジネスパートナーなど様々なリソースを呼び込みやすくなるという先行者メリットも期待できます。


最後に、本稿を読んで自社でも人的資本の活用を図りたいと感じた経営者・人事責任者の方に、今すぐ始められる一歩をご提案します。

それは「まずは人的資本の棚卸しから始めてみる」ことです。難しく考える必要はなく、手始めに、自社の従業員に関する基本データ(人数構成、離職率、平均在職年数、研修実績など)を洗い出し、現状を把握してみると良いかと思います。


そこから見えてくる強み・弱みを整理し、ISO30414の指標と照らし合わせれば、次に何に注力すべきかが見えてくるはずです。この機会に自社の「人の資本力」を鍛え上げ、ISO30414を経営の武器として活用をぜひお勧め致します。










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