Chitose Bio Evolution Pte. Ltd.
美しさとは、思いやること―資生堂「美の玉」に込めた、人と地球と藻類への慈しみ
2025年04月28日
池に漂う緑色の物体、あるいは昆布やワカメといったお馴染みの海藻?
「藻」と聞いて、あなたは何を思い浮かべますか?
今、そんな藻類が、未来の暮らしを支える素材として注目されています。2025年大阪・関西万博の日本館では、パビリオン全体の3分の1が藻類をテーマとした展示で構成されており、ちとせグループが主導するバイオエコノミー推進プロジェクト「MATSURI」も一部展示を手がけています。
MATSURIは、バイオを基点とした社会の実現を追求する産業横断型の共創プロジェクトであり、その一環として藻類産業の構築にも取り組んでいます。そんなMATSURIがプロデュースしたのが「ものもの by MATSURI」。藻類を素材にしたアパレル、化粧品、食品、塗料など、さまざまな「藻の物」が一堂に並びます。
https://chitose-bio.com/jp/expo2025/
本記事ではその中から、資生堂が藻類由来の原料を用いて開発したスキンケア化粧品プロトタイプ「美の玉 しずく」「美の玉 まがたま」に焦点をあてます。太古の海で誕生し、光合成によって地球の酸素濃度を引き上げ、生命の多様化に大きな影響を与えてきた藻類。
その存在にあらためて光を当て、美しさの意味を問い直した化粧品です。スキンケア化粧品プロトタイプ(以下、ビジョンプロダクト)に込められた想いと、その背景にある哲学を、開発に携わった研究者たちの言葉から紐解いていきます。
(左から、ちとせ 林 愛子、資生堂 伊東 祐仁さん、資生堂 小口 希さん、ちとせ 切江 志龍)
今回お話を伺った方
小口 希さん
(資生堂 ブランド価値開発研究所開発推進センター サステナ開発推進室 サステナ処方・原料グループ グループマネージャー)
伊東 祐仁さん
(資生堂 グローバルイノベーションセンター ブランド価値開発研究所 開発推進センター 原料開発室 クロスブランド原料開発グループ グループマネージャー)
古代と現代を結ぶ、2つの形
資生堂が万博で展示する作品は「美の玉 しずく」「美の玉 まがたま」。 宝石のようにさえ見えるこのアイテムには、遥か昔から続く藻類の物語が込められていました。
成分の開発を担った伊東さんは、2つの形に込められた想いを語ります。
「『美の玉 しずく』は、海から生まれた藻類の悠久の歴史を象徴しています。約30億年前、藻類の先祖であるシアノバクテリアは海の中で光を受け止め、地球上の二酸化炭素を酸素に変える営みを始めました。それは地球に呼吸をもたらし、あらゆる生命が生きられる環境を整えていく、大いなる始まりでした。
やがて藻類は長い時間をかけて水辺から陸に進出し、乾いた大地にも根を下ろせる植物としても進化していきます。『美の玉 まがたま』は、そんな陸上での生命の歩みに寄り添うように、人類が太古から身に着けてきた装身具であり、受け継がれてきた美の象徴でもあります。」
水から生まれた命の始まりを思わせる「美の玉 しずく」。
歴史の中で大切に守られてきた、祈りの形「美の玉 まがたま」。
この2つの形に込められているのは、藻類が持つ圧倒的な生命力と、幾億年という時間を超えてなお、私たちの暮らしに息づく小さな生き物の尊さです。数十億年という地球の営みのなかで育まれ、いまこの時代の化粧品としてもうすぐ私たちの手に届く──。そこには、自然への慈しみや畏敬の念が込められていました。
Science/Creativity
小口さん:「西洋の科学と東洋の叡智という異なる価値観の融合から生まれた資生堂にはDYNAMIC HARMONY(ダイナミックハーモニー)という研究開発の理念があります。一見、両立しえない2つの価値を巧みに融合させることで、今までにない全く新しい美を創造すること。そのアプローチのひとつが『Science/Creativity』です。」
(開発チームの研究員 左から佐野 将英さん、米水 龍也さん、尾花 敬和さん)
伊東さん:「今回のビジョンプロダクトにも、この思想は息づいています。プロジェクトのメンバーとディスカッションを重ね 、『美の玉 まがたま』の緑・青・赤の三色は、いずれも藻類がもつ天然の色素(緑=クロロフィル、青=フィコシアニン、赤=アスタキサンチン)をモチーフにし、さらに、形状も藻類がもつ多様で繊細なフォルム――人間の想像を超えた自然の造形美――からインスピレーションを得ています。」
開発当初、開発チームが「藻類を原料に化粧品を開発する」というアイディアをクリエイティブチームに持ちかけたとき、最初は皆「きょとん」という反応だったそうです。けれど、そこから何度も対話を重ね、言葉を磨き、コンセプトをそぎ落としていくうちに、最後に残ったもの、それは「藻への慈しみの気持ち」だったとのこと。
世界でも例のない挑戦、藻から生まれた化粧品のベース成分
伊東さんは、ビジョンプロダクトの成分についてこう説明します。「要となる原料は、ちとせが培養した藻類から抽出された脂肪酸の誘導体。保湿や使用感の向上に欠かせない成分でありながら、藻類由来であるという点が、世界でも例のない挑戦です。
これまで、藻類由来成分が化粧品に使われる例は、主に機能性成分や、藻類 エキスとしての利用が中心でした。一方で、『美の玉』には、ベースとなる基 剤(きざい)の一部を藻類で代替するという、まったく新しいアプローチが採用されています。陸上植物と比較して培養スピードが速く、物質生産効率も非常に高い藻類を素材にすることで、持続可能な素材転換の第一歩になると捉えています。
社内の色々な部署を巻き込み、藻類由来成分ゆえの通常よりハードルの高い精製法を開発しました。安全性と高い品質へのこだわりを持っていると胸を張って言えるような化粧品プロトタイプを実現すること。そのどれもが簡単ではなく、試作と検証を何度も繰り返す日々が続きました。」
そして、精製された藻類由来のベース成分を使い、ビジョンプロダクトとしての一滴が生まれたとき、「この原料が循環型社会に向けた大きな一歩となる」と、開発チーム全員が心から誇りを感じた瞬間だったといいます。
そこにあったのは、ひとえに「地球環境を良くしたい」という真っ直ぐな気持ち。小口さんはこう語ります。「表面的で短期的な結果を求めては、サステナビリティを実現するための開発を続けていくことは難しいです。乗り越えるべきハードルは多く、信念を強く持ち続けていきたいと思っています。」
その言葉には、無理だと言われても、どんなに長い道のりになろうと、本気で挑んだ人の気迫が宿っていました。
無理をしない美しい選択を、あたりまえの未来へ
このビジョンプロダクトをどんな人に届けたいですか?と問われると、小口さんは少し考えて「どんな人にも、気づけばふと日常で手に取ってもらえるようになっていたら嬉しい」と答えました。
さらに、こう続けます。「数十年、数百年後には、サステナブルであることが特別なことではなく、当たり前になっていてほしい。誰もが無理をせず、それを自然に選べる社会へ。その最初の突破口を、私たち資生堂がつくっている――その誇りを持って、取り組んでいます。
藻類由来の成分が、使っていただいた方にどのような満足をお届けすることができるのかを考えてきました。そして今、成分として満足いただくという大切なことに加え、『地球のために』『未来の人たちのために』という心のあり方もまた、お客さまに満足していただける美しさなのかもしれないと考えています。このビジョンプロダクトが体現しているのは、そんなサステナブルというマインドそのものなのです。」
小口さんの言葉を受けて、伊東さんも言葉を重ねます。「いいことをしたとき、人はいい顔になる。そういった心の美しさを発揮したとき、その人自身も美しくなる――そのような想いを込めています。美しいものを見た人の心が動くことで、脳の活動にも変化が起こり、ストレスや悩みの低下、また利他の気持ちが芽生えるといった報告もあります。 そう考えると、自分のサステナブルな購買行動が地球を美しくし、今度は美しい地球を見た自分の心や身体もまた美しくなるという循環が生まれると、そう信じています。」
今回「美の玉」の2品が展示されているのは、「循環」をテーマにした日本館です。その場所で発する「地球の美しさを守るという選択が、自分の内なる美しさにも繋がっていく」というメッセージ。肌だけでなく、人の心にも、地球にも優しくあってほしい、そんな資生堂の願いが「美の玉」になり、今、万博会場から世界に届けられようとしています。
(万博会場にて設営準備にあたる、資生堂クリエイティブ笹木 拓歩さん)
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