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将棋棋士 斎藤明日斗さん

将棋棋士 斎藤明日斗さん

 宮前区で育った若手将棋棋士、斎藤明日斗五段。昨年度は勝率2位、順位戦も全勝でC級1組に昇級するなど、目覚ましい活躍を見せています。

■毎日近所の〝野川第4公園〟へ

 じっとしていられない落ち着きのない子どもでした。親が目を離すとすぐどこかに行ってしまうので一時期、犬に使うリードを付けられていたという話を最近聞いて驚きました。

3歳ごろ。青葉区桂台の公園で

 西野川小学校入学前に横浜の青葉区から宮前区に引っ越してきました。近くに公園が多く、これから楽しそうだなと思った記憶があります。その1つが野川第4公園で、ほとんど毎日、サッカーや鬼ごっこをしに行っていました。友達とも「じゃあ第4で」という感じ。
 スポーツは大好きで足も速く、運動神経は悪くない方だったと思います。サッカーのクラブチーム「JスポーツFC」に入っていて、かなり真剣に取り組んでいました。将棋がなかったらサッカーの道を目指していたと思います。
 勉強は相当苦手で得意科目は体育。授業中はほぼ寝ているか将棋の雑誌を読んでいるか、詰将棋を解いているかでした。 

子ども時代を思い出しながら語る斎藤5段

■将棋かサッカーか

 将棋は小学校に上がる前にアマ初段くらいの父に教えてもらったのだと思います。気が付いたら指していました。小1で将棋会館がやっている千駄ケ谷将棋倶楽部に入りましたが習い事の一つでした。JT将棋日本シリーズこども大会(現テーブルマークこども大会)などに出場し、いいところまで勝ち上がると必ず当たる子がいてその子にだけにはどうしても勝てない。悔しくて、直接その子に「どこに行ってるの?」と聞いたら「三軒茶屋将棋倶楽部(宮田利男八段席主)だよ」と教えてくれました。じゃあ俺も行くしかないなと、小3で初段になったので千駄ケ谷を卒業し、その後は三軒茶屋に通い始めました。教えてくれた彼は今、奨励会の三段リーグで戦っています。
 5年生くらいの時に師匠の宮田から奨励会の試験を勧められました。プロを目指す人が行くのが奨励会だとは知っていましたが、当時の自分は重さが分かっていないというか、しっかりした覚悟があったわけではなく、ちょっと面白そうだなと思い受験することを決めました。ただ、受験の条件がサッカーをやめることだったのでこれは結構、大変なことなんだなとは思いました。その頃、手足の骨折などでサッカーができない時間が多くなり、うまいグループに入れなくなっていたので、やめることに抵抗はありませんでした。コーチに「将棋のためにやめる」と話した時はかなりびっくりされましたが。
 父は将棋好きなので応援してくれていました。母がどう思っていたのか謎で、今度聞いてみたいです。
 後で師匠から、まさか受かるとは思わなかったと聞きました。ただ、何か目標を与えれば僕がもっと身を入れて将棋に取り組み、強くなると期待したみたいです。

「面白そうだからと奨励会を受験しました」

■高校受験と奨励会の両立に苦戦

 少しフワフワして入った奨励会ですが、プロ棋士の公式戦の記録係などをやり、プロの先生たちの迫力を生で感じ刺激を受けるうちに絶対にプロになりたいと気持ちも変化していきました。学校では、特に野川中に通っていたころは常に将棋のことを考え、あまり周囲とコミュニケーションを取ろうとしませんでした。
 中3で初段になりました。が、自分の学力だと高校に入るのも難しいくらいだったので学習塾にも毎日通いました。そうなると今度は将棋の研究ができず奨励会の成績が落ちてしまう。一級に降級しそうになる、ということが何回もありました。高校受験と奨励会の両立は本当に大変でした。

■楽しかった高津高校時代

 高津高校では気の合う友達もできましたし、大学に行かず将棋のことだけを考えればいいと決めていたので楽しかったです。テスト期間中も将棋の研究をしていたので母からは心配され、「勉強しろ」と言われました。足の速さは健在で、体育祭では帰宅部なのに選抜リレーの選手に選ばれたりしていましたね。
 2年の秋、17歳の時にプロの最終関門である、奨励会三段になりました。高校生で三段は早い方でしたし、その時の三段リーグでは最年少。気持ちに余裕がありました。が、僕が2期目の時に、13歳の藤井聡太竜王が三段リーグに入ってきました。強い人がいると、もちろん知っていました。詰将棋選手権で連覇したことも知っていましたし、関西奨励会の知り合いも強いと言っていました。棋譜を見てもすごい。なるべく気にしないように、自分は自分だと言い聞かせていました。藤井竜王は1期で四段に昇段してプロになり、対局の機会はありませんでした。

■19歳でプロの四段に

 高校を卒業した時に棋士の鈴木大介九段から「卒業後は2つのタイプに分かれる。一つは生活のリズムが作れ将棋に打ち込めるタイプ、もう一つは生活が乱れるタイプ」と言われ、しっかりやらないとプロになれないかもしれないと身が引き締まりました。自分は生活リズムが調節でき、毎日充実していました。
 半年後、19歳で四段になりました。学生でもないし、定職に就いているわけでもない自分がプロになり、やっと一人前になれた気がしてめちゃめちゃうれしかったです。が、その後はなかなか結果が出せず苦しかったです。
 同門の本田奎五段は棋戦初参加でタイトル挑戦、伊藤匠五段は新人戦優勝と、2人の活躍に自分も活躍しなければとあせる気持ちもありました。2人のことは常に意識しています。もし2人に当たったら絶対に負けたくないし2人より活躍したい。こういう気持ちが最近、良い結果を残せている要因の一つではないかと思います。でもまだまだ。ようやく一歩踏み出せたところです。これからも精進してタイトル挑戦を目指します。

ようやく一歩踏み出せたところです。

プロフィール

1998年7月17日生まれ。川崎市立西野川小、野川中、川崎市立高津高校卒。2010年9月奨励会入会。2017年10月プロに。宮田利男門下。五段。

インタビューの様子はこちらで見られます。