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かわさきツナガリ
俳優 市原隼人さん

かわさきツナガリ  俳優 市原隼人さん

今回のかわさきツナガリにご登場くださったのは、映画やドラマなどで活躍中の俳優、市原隼人さんです。現在上映中の映画『劇場版おいしい給食 卒業』では、給食を何よりの楽しみにしている主人公の中学教師、甘利田幸男を演じています。川崎で過ごした子どものころを振りかえってもらいました。

1987年生まれ。連続ドラマ『WATER BOYS2』や『ROOKIES』などで人気を博す。現在NHKで放送中のドラマ『正直不動産』では桐山貴久役、大河ドラマ『鎌倉殿の13人』では八田知家役として出演。

早く明日になってほしい、と思うほど小学校が大好きだった

 トム・ソーヤみたいな、常に好奇心と冒険心に溢れている子どもでした。小学校が大好きで、早く明日になってほしい、と思うくらい。待ち遠しくて毎日布団の中でワクワクしていたほどでした。

 登校する時は、ここで犬に〝ヨシヨシ〟をして、ここで友達と会って、ここで石蹴りを始めて、ここの角でいつも窓が開いているおばちゃんに手を振って、ここでクリーニング屋の中の時計がまだちょっと早かったら公園で遊んでから行く…、というルーティンがありました。とにかく学校で友達に会うのが楽しみで楽しみで。遊ぶことに夢中でランドセルを忘れたことも何度かあります。アニメみたいですよね。

 帰り道では、わざと少し残して隠して持っておいた給食のパンを犬にあげるんです。今思えば、あまり良くないかもしれませんが、当時は犬が喜ぶことがうれしくて。家に帰ると、玄関にランドセルをバーンと投げて「ただいま」と言い、その1秒後には「遊びに行ってきます!」。学校の近くにあった駄菓子屋では、お小遣いを握りしめ、大好きなお菓子を買って食べたり。そんな少年でした。

 2歳から器械体操と水泳をしていたので、体育の時間は「まず市原君、そこで逆立ちしてみて」「逆上がりして」「バク転してみて」と先生に言われて、いつもみんなの手本になっていました。

■父親とキャッチボールをして楽しんだ多摩川河川敷

 地域のつながりの中でずっと育ってきました。近くの銭湯でよく怒られたり、家に近所の友達がみんな集まってきたり。あそこの家の夕食は何時ごろ、というのもみんな分かっていて。小学生の時の話ですが、夕食が天ぷらだと母が大量に揚げ、「端から全部配ってきなさい」と言われて僕がご近所中に配り、代わりにおかずをいただいて帰ってくる。今思うと、そういうやりとりがすごくすてきですよね。

 〝自分がここに住んでいる〟というのをみんなで共有しながら地域コミュニティーを守っていく、というスタンスでした。川崎は地域のつながりが太く濃く残っている場所だと思うんです。

 思い出の場所といえば多摩川河川敷。晴れていたら父とキャッチボール、日が暮れても「まだキャッチボール、やりたい!」とお願いしたり。ランニングも好きだったので、土手を一緒に走ることもありました。父は笑顔でずっと遊びに付き合ってくれました。かまくらが作れるぐらい雪が降ったときは、鼻を真っ赤にしながら、時間を忘れて作ったり。多摩川にはいろんな思い出があります。

■人間関係がしっかりしていたから「もう少し頑張ってもいいんじゃないかな」

 小5のときにスカウトされました。最初は「何も考えずに部活感覚でやってみよう」と。両親からは「学業をしっかりしなければすぐに辞めなさい」と言われていました。  

 岩井俊二監督の作品の主演でデビューさせていただきました。岩井さんは母とメールで情報共有をしていたり、当時のマネージャーが僕の家でご飯を食べたり。中学生の時には、プロデューサーの家によく泊まりに行きました。人間関係が深くしっかりしていたからこそ、「じゃあ、もう少し頑張ってみようかな」と思うようになりました。

ありのままの背伸びをしなくていい、自分が帰る場所

 今は撮影が続いているので難しいですが、もし休みがあって誰かと会うとしたら、地元の友達です。生まれた病院も小学校も中学校も一緒。その友達と今でもずーっと交流しています。

 僕は墓に入るまで川崎っ子だと思います。ありのままの背伸びをしなくていい、自分が帰る場所。いつまでも大切にしたい場所なんです。好きです、川崎。愛の街、です! (※)

※「好きです かわさき 愛の街」。川崎市民の歌。川崎市内を巡回するごみ収集車で作業中に流れている曲

給食は誰かと一緒に食べる初めての会食

 『おいしい給食』シリーズの撮影中に多くの給食を食べたのですが、揚げパンがおいしかったです。小学校のときも揚げパンが大好きでした。外食でも家でも出てこない、給食の時間にしか味わえない特別感があるので。給食当番に、できるだけトングで砂糖をたくさんかけてもらって、食べ終わった後に口の周りをなめるのが好きでした。

 義務教育の中で、給食の時間は義務から外れて、全てをさらけ出し、裸の心でいられる唯一の時間。誰かと一緒に食べる、初めての会食なんです。

 牛乳がそこまで好きでもないのに牛乳じゃんけんをしたり、そんなにおなかが空いていないのに、すぐ食べてお代わりしたり。給食を通して友達と通じ合ったり、楽しんだりしている時間を過ごすのがすごく好きでした。

■中学校が給食になってうらやましい!

 川崎市立の中学校が給食になったんですよね。うらやましいです! 保護者の方も毎日お弁当を作らなくてよくなり、助かりますね。

 給食は、子どもからすると献立を見て、好きなメニューがあるだけで一日ハッピーになったり、苦手な食べ物があると一日全てが台無しになったような気持ちになったり。大人目線だと、その地域の情勢や経済環境など、いろんなものが見えてきます。子どもたちにつなげていきたい食品などや、歴史、文化。その重みを一緒に食すという思いも込められています。この年齢になり、このようなことを改めて感じながら撮影で給食を食べていると、胸もおなかもいっぱいになるイベントなんだな、と改めて深く感じます。

 『おいしい給食』の舞台は1980年代です。その時代の古き良き心といいますかそんな人間臭さと、コロナ禍で失われかけている人と人とのつながりを感じていただける作品でもあります。僕が川崎で培った人との距離感や、人間愛も含めてこの作品にたくさん入っていますので、楽しんでご覧いただけたらうれしいです。

映画『劇場版おいしい給食 卒業』公式サイト https://oishi-kyushoku2-movie.com/